哀しみの決断【sideベイシャン】

■自キャラだけの話です。
 
 
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 悲しい。哀しい。かなしい。
 かなしくてかなしくて堪らない。彼女が幸福であれないことが、彼女が苦しんでいることが。
 彼女が何をしたというのだろうか。彼女達が何をしたというのだろう。
 彼女達は、私達は。ただ、普通でありたかっただけだ。毎日の日常をただ穏やかに生きたかった。たった、それだけなのに。
 
 私は今日もミィレンの記憶を操作する。眠りについた彼女の脳を操作して、ミーという夢見がちな少女の脳と記憶へと変化させる。
 世界の汚れもかなしさも何も知らない。純粋無垢だった頃のミィレンに戻す。そうすることがミィレンの望みだからこそ私はその指示に従う。
 けれども、もう、嫌だと思った。
 
 ミィレンはアイを取り戻すために沢山の努力を重ねた。重ねて、重ねて、でも心が壊れてしまって。もう心は体を動かせない程の状態だというのに、それでもアイを取り戻すために自らの心を守るための最終手段に出た。
 
 ミィレンとしての記憶にはもう辛いものしかない。生きていて、息をするだけで、もう限界でしかない。その状態で何を摂取しても心は回復するどころか、益々壊れていくだけだ。
 けれどもそれではアイを取り戻せない。それは困る。ミィレンにとってアイは唯一無二の親友であり、最愛の家族なのだから。
 だからミィレンは、____しあわせな夢を見ることにした。
 ミィレンの意識ではそれを幸福とは受け取れずとも、”辛い記憶を持たない少女ならば何もかもを幸福に受け止められる”。
 だからミィレンはミーを生み出した。私の力を持って、脳を操作し、ミーという架空の夢見る少女を生んだ。ミーが得た幸福で、心を保たせようとしたのだ。
 
 私は、反対だった。
 
 結局それはミィレンが夢から醒めて現に戻った時に、更なる絶望を噛み締めるだけ。それなのに仮初の記憶が得た情報で自分の脳を誤魔化そうとして。
 余計に、壊れるだけだ。
 
『コンジュ、ホアンシー』
『…………』
『私もアイのことを愛してるの』
『うん。知ってる』
『でもね』
 
 長らくの付き合いである二匹に声をかける。私と同様にアイを愛している彼女達に。
 私が何を言いたいのかすぐにわかったのだろう。コンジュは泣きそうな声を零す。
 
『ミィレンを守るには、もう、これしかないと思うの』
 
 アイを忘れること。あの男と、あの男に関する記憶を全て消すこと。
 幸いにも今の私達のパーティーは強くなった。ミーでもバトルは行える。
 だからこそ、私は最低な決断を下そうと考える。
 
『皆からも記憶を消すから。私だけが全てを背負うから』
 
 だからもう傷つかないでほしいの。アイを見捨てる決断を、私は二匹に望んだ。


 

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