子どものお強請り【sideリピス】

■お借りしました:マリッサちゃん
 
 
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 順調といえば順調だった。大した問題はなくイベントは進む。ゴーストタイプのポケモンに”悪戯”をしかけられるといったこともない。それだというのに、どうしてこうも不安が残るのだろうか。
 どくん、と心臓が跳ねた。反射で振り返るも、そこには誰もいないし、野生ポケモンの姿がある訳でもない。気のせいだ。ほっと胸を撫でおろして、わたしは再び歩き出す。いいや、少しばかり駆け出していたのかもしれない。
 
 光が瞬く。
 
 反射でそちらに振り向いてランプを掲げた。けれどもそこにはやはり何もない。ただ、ただ、鬱蒼とした森が広がるだけ。神経過敏なのだろうか。そう思っていると、別方向から音が聞こえた。リングが振動していたことには、その時漸く気付く。この振動の様子は、別チームの人間が近くにいる合図。
 音がした方を注視していると、一人の女性が出てきた。このイベントに見合った可愛らしい仮装をした、見間違える筈のない既知の人物。去年の夏に出会った時と髪型も服装も違うが、それでもその髪と目の色は変わらないし、わたしにやさしくしてくれた時の表情も、変わっていない。
 
「!リピスちゃん?」
「マリッサ!!」
 
 間違いない。マリッサその人だ。先程までの緊張やら恐怖やらはすぐに吹き飛んでしまった。わたしは嬉しさのあまり彼女の元まで駆けて、飛びつくように抱き着いた。
 
「マリッサだわ、会えて嬉しい!」
「私もよ。元気にしてた?」
「ええ」
 
 色々あったが、何だかんだで五体満足で健康体だ。偽ることなく抱き着いたまま見上げて頷けば、飛びついた拍子に落ちていたフードをマリッサがやさしく持ち上げて被せ直してくれる。
 
「お揃いみたいね、私とリピスちゃん」
 
 フードを直してもらったことにありがとう、と言うよりも早くにマリッサが口にしたことにわたしははっとして、自分の姿と彼女の姿を見遣る。確かに、わたしの仮装もマリッサの仮装は色合いどころか、明らかに同種族のポケモンの進化系統であることがわかるモチーフだ。それが嬉い反面、どこか照れくさい。
 
「うん。……嬉しい」
 
 思ったことを素直に口にしたが、気恥ずかしさが増した気がする。なんなのかしら、どうしてもやっぱり恥ずかしい。うっかり緩んだ表情を引き締めつつ、誤魔化すようにわたしはマリッサに抱き着くのをやめて、ボールを取り出した。
 
「バトルオアトリート!わたし、マリッサとバトルしたいの」
 
 照れくささを誤魔化すように勢いあまってバトルを仕掛けたが、純粋に彼女とバトルもしてみたかった。折角のイベントでの再会で、折角の別チームなのだ。この機会を逃す訳にはいかない。
 わたしが勝ったら、また歌も歌ってほしい。そう告げながら、わたしはボールの中でやる気十分なビビと共にマリッサを見上げた。
 
 
 
***
 
 
▼参加登録ポケモンより、「ビビ(ナックラー♀)」でマリッサちゃんにシングルバトルを挑ませて頂きました!
 作品内で宣言していませんが、賭けチップ数は5個にさせて頂いております。
 不都合がありましたら断ってください!

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