ひとりより【sideリピス】

■お借りしました:レゼルくん、プリュムくん、カルミアちゃん、シャルムくん

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 お使いを頼んでもうどれだけ経っただろうか。いくら何でも戻ってくるのが遅すぎやしないだろうか。
 折角ユメキチの分のシャーベットも買っておいたというのに、このままでは溶けてしまう。大人でわたしよりも沢山食べるからと二つ買っておいたのが仇となった。わたし一人で三つのシャーベットを食すことは厳しい。手持ち達はと考えたが、彼らも先程ポフレを食べたことで満足してしまっているため、もういいよと返されてしまうだろう。
 さて、どうしたものか。わたしの分を食べるのには何も問題がない。だからそれはいい。それはいいのだが無意味に溶けてしまう二つのシャーベットはあまりにも可哀想だ。頭を悩ませながら周囲を見渡して、ふと。横に座っていた二人の少年少女が視界に入った。わたしよりは歳上だろうか。彼らも待ち人を待っている最中なのか、人の名前と思わしき名を呟いて、来ないね、といった風に言葉を零している。
 溶けるまでのタイムリミットが残り僅かなシャーベット。この場にいる見ず知らずの三人の人間。そうだ、と。わたしは閃いた。

「ねえ、あなたたち。シャーベットは好き?」

 唐突に、本当に唐突にわたしは横にいたその子達に声をかけた。美しい金糸を揺らめかせながら少女の方がわたしの方を見る。それにつられて、その子の横にいた緩くウェーブのかかった金糸を持った少年もこちらを向く。どちらともも酷く整った美しい容姿だ、と思う。瞳の色は異なるが、それでも髪色は近く、同じようにも思える。兄妹だろうか。

「?」
「シャーベット?」
「苺味なの」

 小さなケーキボックスを開き、保冷剤と共に収められている赤のそれを二人へと見えるように微かに傾ける。少年の方はいいのかな、といった風に少し悩んだ様子を見せているが、少女の方はどこか嬉しそうに表情を和らげてくれている。彼らの手持ちであろうエーフィとモクローも興味深そうにこちらを見つめてきたものだから、代わりにとムムの顔を向けておいた。その何?って顔やめてくれるかしらムム。御挨拶は大事でしょう。

「駄目かしら。同行者が戻ってこなくてわたしひとりじゃあ食べきれなくて。このままじゃあ溶けてしまうの」

 それに美味しい食べ物は、幸せな気持ちになることが出来るものは、ひとりで食べるよりも誰かと食べる方が嬉しくて楽しいのだとわたしは知っている。とはいっても彼らがシャーベットを好まないのであればこの提案はすぐに下げるつもりだ。失礼を働き、押し付ける気はない。
 ああ、でもそういえばそうだったわ。もっと大事なことを言葉にしていなかった。このままじゃあわたしもユメキチのように不審者扱いされてしまう。というかもしかしてまた通報されたのかしら。それなら更に戻ってくるのは遅いでしょう。そんな風に頭の片隅で同行者のことを考えながら、わたしは改めて二人と二匹に向き直った。

「申し遅れたわ。わたしリピスっていうの。この子は親友のムム」

 名乗るのは大事なことよね。名前も知らない人からの食べ物なんて怖いもの。

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