願うこと【sideオロバス】

■お借りしました:(全然動かせてあげれてないですが)ユラちゃん
 
  
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 グリモアのはじめての手持ちとなったのは私だった。
 まだ手持ちを持たずにいたグリモアの傍にはいつだって守るようにキングドラの姿があった。幼いながらにして働く子ども。その子の手伝いをキングドラがしていたとはいえ、それでも彼に出来ることは限界があったし、私はその様を見て放っておけるような性分でもなかった。
 重い荷物を運びたいのなら手伝おうと、進化前の未熟な姿でも構わずに私はあの子の元まで駆けたのだ。
 
 
 メイジーから預かった卵をしっかりと抱き締めるベリトは、その体躯の小ささのせいで少しばかり危なっかしい。私はその子の背を軽く鼻先で撫でた。そうすればベリトは不思議そうにこちらを振り返った。
 
『なあに、オロバス』
『背にお乗り』
『いいの?!』
『ああ』
 
 表情をわかりやすく明るくさせたベリトの前に首を下げて身を屈ませる。しっかりとした足取りでベリトは私の首を歩いて背中まで登りきった。それを確認してから私は立ち上がる。
 
『ふふ』
『上機嫌だね』
『オロバスの背中を今日はあたしとこの子で独占だわ』
『喜んでもらえて嬉しいよ』
 
 ベリトは、子どもらしい子どもだと思う。それはベリトだけではなくキマリスもだ。最近共に旅をすることになったココもメイジーも、ララだって私からすればそう見える。
 けれどもグリモアだけが、子どもらしさを手に入れられないまま育ってしまった。私に出来たことは何かあっただろうか。自問自答を何度行っても、私にはその解は見つけられない。
 
『あら?ねえオロバス、あのポケモンって前あんたがバトルしたポケモンじゃないの?』
『……ああ、そうだね。久しい顔だ』
 
 思案する中、声を掛けられて私は顔を上げた。ベリトの指し示す先に視線を向ければそこには確かに以前バトルをしたポケモンの姿があった。ダグシティのバトルショップの店長の手持ちのゴウカザル。名前はユラだった。彼女の周りには他にもテイの手持ちと思わしきポケモン達がいる。
 
『殴られるかしら』
『どうしてそうなるんだ』
『だって前オロバスが勝ったから』
『バトルはそういうものではないよ』
 
 恨みを残すようなバトルも勿論世の中にはある。ベリトがそれを見てしまったことは、彼女に悪影響を与えてしまったと思うと悔やむ他ない。それでもまだこの子には、教えることをやめたくはない。当時の私がグリモアに出来なかったことをベリトとキマリスに行おうとしているのは、ただの自己満足にすぎないとわかっていても、私はやめないのだろう。
 
『バトルじゃない挨拶の仕方は?』
『わかってるわよ!こんにちは、でしょ』
『百点満点だ』
 
 首だけを振り返ってベリトを見れば、嬉しそうにその子は破顔する。どうか、その笑顔が永遠であればと願わずを得られない。
 グリモアの笑顔を、いつか見ることが出来る日は来るのだろうか。そんなことを考えて、その力になれなかった己を呪う。
 
 早く挨拶にいきましょうよと私の背を叩くベリトに苦笑を零して、私はかつてバトルをした彼女たちの方へと脚を動かした。
 
『こんにちは』
『こんにちは!』
 
 近寄れば自然と視線がこちらに向けられた。目と目があったら、なんて文句は今は別の話。元気いっぱいに挨拶をするベリトの声に、私の挨拶なんて掻き消されてしまっていそうだななんて思わず笑みを零した。

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