剽軽者【sideラサーサ】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:ディンブラちゃん
 
 
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 幸せの定義というものは酷く不明瞭なものだ。美味しいものを食べれば幸せだと感じるものもいれば、高価なものを食べれば幸せだと感じるものだっている。何を基準として幸せと捉えるかは個人による違いがあって、それを押し付けることや理解することは完全には難しい。
 さて、幸せとは”どうあるべきだろうか”。
 
 
 
 俺の唇に翼を触れさせてディンはぽつりぽつりと言葉を零す。見ているだけでもわかっていた震えは、触れてしまえば猶更わかりやすいものとなる。
 
『幸せになりすぎてしまうのが怖いの』
 
 耐えるように、恐れるように、震えながも絞り出された声。じっとディンを見据えてから俺は唇に触れられさせたままの翼をそのままやさしく撫でる。少し強張ったような気がした。それでも、嫌ではないと彼女は先程口にした。
 
『なあディン』
『……何?』
『幸せになるのってさあ、怖いよな』
 
 唇を離して、先まで触れていディンの翼をやさしく翼で撫でる。それはただ重ねるというだけの表現に近いものかもしれない。
 
『……ラサーサくんが?』
『そう、俺も』
 
 へらりと笑って足元に散らばった白く小さな花を見遣る。残影。ほんの一瞬、その花があの時砕け散った破片に見えて気のせいだとすぐに理解する。それでもその記憶が一生脳にこびりついているからこそ、俺は幸せを”嫌い”でいられる。
 
『怖くていいじゃん。むしろ怖くないやつなんていないいない』
 
 俺もだし、セイフもだし、シャラクもだし、と仲間たちの名前を勝手にあげていく。意外そうな様子で聞いてくれていたディンの翼をまたやさしく一度だけ撫でて、彼女の瞳を見つめた。
 
『怖いからさ、分け合うんだよ。そういうの』
 
 幸せのおすそ分けなんて言葉がある。確かに嬉しいことや楽しかったことを共有し、共感しあうことはある。そういった人間やポケモンを沢山見てきた。それなら、その逆だって勿論存在するだろう。恐怖だって分け合うことで緩和する。生き物の心理とは中々にうまく、生き物たちに都合よく出来ているのだ。だからこそ、生きていられるのだろうが。
 
『怖いままでいいよ。ただ、怖くてもディンには沢山の幸せの素質が元々あったことを理解してくれたら、俺はそれだけで嬉しいかな』
『元々あった……?』
『さっき隠したみたいにさ、隠されてただけで見えてなかったものとか。結構あるもんだよ』
 
 だから、と白い花を拾い上げてディンの翼にそっと乗せた。
 
『手をとってくれたら、俺は嬉しいよ』
 
 俺の怖さも半減する訳だしね、とへらりと胡散臭い笑みを浮かべて俺はただ笑った。

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