割と似た【sideキノス】

■自キャラだけの話です。
※花ト卵のレフティアが迷子中の話。
 
 


 
 
 いつの間にかレフティアが迷子になることはよくあることだ。よくあることだが、その理由が理由なためキノスは不安で仕方がなかった。
 いや、今回ばかりは自分だけがはぐれたようなものなのでさほど気にかける必要はないのだろうが。ランタもヴィティもテュッキュもついている。彼等がいれば問題は無いとわかっている。わかっているのだが、____レフティアの過去の姿、オヴィがとある組織にいたことを知っている身としては。どうしても不安になってしまうのだ。
 
 もう十何年は前の話になる。まだキノスがキノスというNNではなく、リューというNNで前のトレーナーの元にいた時のことだ。
 結婚し旅を終え、エリューズシティに妻と定住することに決めた彼と共にキノス達はニヴル雪原を散策していた。理由としてはその土地に住まうポケモン達を調査したかったからという至極単純な理由だったのだが、寒さが苦手なキノスには流石に厳しく、ボールの中からその光景を眺めていたのだ。
 
 その子は唐突な襲撃をこちらにしてきた。青い光を発するリングを首に嵌めたその少女は、まるで誰かの飼い犬のように見えた。
 虚ろな青い瞳は凍り付いていて、その子の周囲には数匹のアンノーン達が泳いでいた。明確な敵意を、いいや、違う。拒絶の意志を持って。
 
『……リュー?』
『……え?』
 
 自分の過去の名前を呼ぶ声にはっとしてキノスは振り返る。そこに立っていた存在を視界に収めた瞬間、愛おしかった日々の記憶が鮮明に思い起こされた。溢れた雫を抑えることも出来ず、キノスはかつてのトレーナーの妻の手持ちだったゼブライカを抱き上げた。
 
『お、おい、流石にやめろ』
『ゼブライカだ!この生真面目さ!』
『どういう判断だ……降ろせ』
 
 ゼブライカに怒られ、キノスは素直に彼を降ろした。お互いこのような場所でまた会えるなんて思ってもいなかった。故に互いのことを話した。尋ねた。
 ゼブライカは今はキノスの元トレーナーの娘の護衛として手持ちにいること。
 キノスは今は元トレーナーが制止した少女の手持ちに保護者としていること。
 
『そちらもそちらで中々だな……』
『ね……でも元気そうでよかったよ』
『娘は見ていかないのか?会場に来ているぞ』
『……泣いちゃうから、今はやめておこうかなぁ』
 
 それに、とキノスは付け加えた。
 
『クラードもまだ会ってないんなら、僕はその後がいいや』
 
 愛する元トレーナー。はじめてのトレーナー。彼が愛した人と残した大切な宝物。その子に会いたくないかと問われれば、会いたいに決まっている。けれども、クラードが会うのを必死に我慢しているのに自分が会ってしまうのはいけないような気がしたのだ。
 もうキノスはクラードの手持ちではない。モンスターボールだって別のところに入っているし、何の繋がりもない。
 けれども、彼を愛する気持ちだけは永遠に変わらない。
 
『……トレーナーに似たんじゃないか?』
『ええ……クラード程クソ真面目で神経質じゃないよ……』
『それもそうか』
 
 元トレーナーに対してこれまた酷い扱いではあるが、それが彼らの距離感であり、仲の良さを現している。げえという顔をしたキノスを見てゼブライカは僅かに微笑んだ。
 
『しかし、大丈夫なのか?そのレフティアという女性は』
『全ての記憶を失ったうえで、今は幸せな環境に恵まれてる。後遺症はあるみたいだけど……問題は無いと思う』
『そうか。……とはいえ、放っておけないのだろう?』
『うん。じゃなきゃあんな寒いとこに住めないよ』
『やはり似ているじゃないか』
 
 お人好しの部分だけね、とキノスはおかしそうに笑う。
 
『でも今普通に心配』
『?』
『迷子で。僕が』
『なら問題ないじゃないか』
『一人で歩かせるのが不安な子なんだって』
『……。なら早く探しに行くべきなんじゃないか?』
『それは、そう』
 
 神妙な面持ちで頷いたキノスにゼブライカは言葉を失い、背を向ける。そしてそのまま早く行けと容赦なく後脚でその巨体を蹴りあげた。

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