旅の終わり【sideグリモア】

こちらの話の一方の話。

■お名前だけお借りしています:テラーさん、メイジーちゃん、ラヴィーネちゃん
 
 
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 グリモアは自分のことに酷く無頓着だ。男の子として生を受けたものの整った顔立ちは酷く中性的で男か女かの判断を不明瞭にさせた。
 両親は勿論グリモアには男の子として接したが、周囲とまともに関わることのなかった一家のことを他の人間が知ることも無く。
 グリモアは両親と手持ち以外からは男と捉えられる時もあれば、女と捉えられる時もあった。
 ここで本当に問題だったのはグリモアが自分の性別を何とも思っていなかったこと以前に、自分のことを何とも思っていなかったことだ。
 男だと望まれるなら男としてあればいい。女だと望まれるなら女としてあればいい。ただ自分が生きやすい方に捉えてもらえばいいだけだと、____策士に生きてきた。
 まさに姉であるドティスと同じことをしているので、似た者姉弟だとしかいえないのだが。当人達は知らないことだ。
 
 必要とあればスカートだって身に付ける。その方が周りを油断させやすいからだ。
 不利な状況に陥れば少年としての力で場を切り抜ける。そんな時ですら騙し討ちは酷く有効的だということも知ってしまっている。
 
 けれども、医者であるドティスには気付かれてしまったのだろうなとテラーを抱き締め返している様を横目にしながらグリモアは思う。
 やさしい人だと思った。はじめて会った姉への印象はそれに尽きて、父よりも母に似ている人だと。受け入れ難いに決まっている腹違いの弟を家族だと断言するとは思っていなかった。それ程までに、"苦しくて辛い思い"をしてきた人なのだろうなと。
 不可解以上に、同情心のようなものが浮かんだのはドティスが家族だと断言してくれたからだろうか。
 
「キマリス」
 
 楽しそうに幻想の空を見上げるその子の傍にしゃがみこんで、グリモアは問い掛ける。
 
「旅の目的が、終わった」
 
 グリモアが旅に出た理由は、父の家族探しだ。それがついにこのコランダの土地で叶った。だからこそもう旅をする理由はなくなったのだ。
 だからこそ、もう後は旅を終えて家に戻って動けない父の代わりに働くべきだ。当初からそのつもりだった。だから、帰るべきなのに。
 
「もう、帰らないと」
 
 勝手についてくるようになった旅の同行者であるメイジー達には何と説明しようかだとか、テラーと約束した新しい手持ちを見せるという話はどうしようだとか、ラヴィーネと約束したフィンブルへと向かう話はどうしようだとか。
 頭を過ぎるのは、沢山の約束。
 
 それと、生まれて初めて抱いたさみしさだった。

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