別れと、決意【sideレフティア】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テオさん、アメリーちゃん、アニーニケさん

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 いつの間にかはぐれてしまっていたキノスとも無事再会が出来た。知らないうちにアメリーとも仲が良くなったようで、アメリーはキノスの腕から降ろされると少しだけ耳を下げて落ち込んだ様子を見せている。その様子にキノスは穏やかに笑ってアメリーの頭を撫でてやっていて、テュッキュは相変わらず好き勝手にはしゃいでいた。
 
「レフ、そろそろ行こう」
「はい」
 
 別れの挨拶をすませ終えたキノスをボールの中に戻し、テュッキュに頭によじ登られているアニーニケを見上げる。快活で気のいいアニーニケは気にすることなくテュッキュの背に手を回し爽やかな笑顔を浮かべ、今度こそ私が迷子になってしまわないようにと手を差しだしてくれた。その手をとってからもう一度私はテオの方を振りく。
 
「本当にありがとうございました」
「ううん、気にしないで。俺も楽しかったから」
 
 柔和に微笑む彼の表情につられて微笑みが零れる。寂しそうにこちらを見上げていたアメリーの頬をやさしく撫でて、また会いましょうねと告げればぱあ、と表情が明るくなった。可愛い子だ、と心の底から思いながら名残惜しくも手を離す。
 
「テオさま。わたくし、テオさまがフィンブルに来て下さるの楽しみにしていますね」
 
 告げた際に胸に浮かんだものは期待と喜びと寂しさ。そのどれもこれもが納得がいって、だからこそ、それの名称には気付けないまま。
 肯定するように微笑んだ彼の表情に、私はまた心を躍らせるのだった。
 
 
***
 
 
 クッカ・ムナの祭りを終えて数日は経っただろうか。花と卵が溢れた春のあたたかさに包まれた世界から、白銀に覆いつくされた雪の世界で私は普段通りの日常を過ごしていた。
 今日はジムトレーナーとして、ジムの中でポケモン達の世話をしながら外を見遣る。雪がしんしんと降る中で、どうしても彼の姿を探している自分がいることを理解してしまう。
 すぐに来訪出来るような立地でもないのだから、と期待してそわついてしまう自分に苦笑を零してしまう。膝の上にのっていたテュッキュがどうしたのかと見上げてきたものだから、その身を抱き上げて頬を擦り寄らせた。
 
「何でもありませんよ。心配してくださってありがとうございます」
 
 擦り寄らせた頬は氷タイプだからこそ冷たいはずなのに、どうしてかあたたかく感じられる。応じるように頬を擦り寄り返してくれるその子が嬉しそうに抱き着いてくるものだから余計に愛おしさに胸があたたかくなった。
 しかし、だ。それにしてもここ最近は気分が落ち着かなさすぎる。業務に支障は起こしていないからいいものの、これではいつ失態を犯してしまうことか。気を引き締め直さないといけない、と私はテュッキュを抱き上げたまま立ち上がる。どうしたのか、とこちらを見上げてくるテュッキュに私は微笑みを返した。
 
 ジムの中を歩いていれば探し人の姿はすぐに見つかった。普段とは異なりきっちりとした装いのアニーニケ。ジムトレーナーとして務めている時はこちらの姿になるアニーニケは口調や仕草すらも何もかもが変わる。私も最初は意外には思ったものの、新しい彼の一面を知れたことが純粋に嬉しかった。
 
「アニさま」
「おや、どうなさいました?」
「今は……お暇でしょうか?」
「ええ、ありあまりすぎている程に」
「それでしたら、わたくしと手合わせして頂けませんか?」
 
 唐突の私の申し出にアニーニケがきょとんとし顔を見せてから、目の色を穏やかなものに変えて微笑む。
 
「貴女が自分から何かをお願いしてくるなんて、珍しいですね」
「まだまだわたくしはジムトレーナーとして未熟な身ですので、先輩であるアニさまの動きを直接体感したいのです」
 
 気を引き締め直したかったのも真実だが、ずっと考えていたことがあった。
 それは何度も思い返した再会したミユキのことだ。彼は初心者トレーナーとしてこのフィンブルを旅立ち、いつかフィンブルジムに挑戦に来てくれると話してくれた。それが嬉しく、同時にもっと自らもしっかりしないとと思ったのだ。
 いつかこのジムに訪れてくれるチャレンジャーの前に、胸を張ってジムリーダーの前の壁として。試すものとして立ち憚れるようにと。
 だからこそもっと自らもジムトレーナーとして相応しくありたいと。そう望んで、信頼し尊敬する兄へとポケモンバトルを願った。

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