嬉しい再会【sideガラド】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:レゼルくんたち
 
 
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 やはり着ぐるみは蒸れるな、と熱さに慣れている身であっても痛感してしまう。やはりもう少し軽装備にするべきだっただろうかという後悔が過ぎるが、今となってはどうしようもないことだ。知り合いに知られるのが恥ずかしいからという理由も既に瓦解してしまっているのだから今更着ぐるみでいることに理由などあるのだろうか、と悩み始めてしまえば終わりだ。
 逆に今着ぐるみを脱いだらどうなるかというと、持ち歩くのが面倒くさい。ダッバーバに頼んで運んでもらうという手はあるが、そんな実に個人的なくだらない我儘を手持ちにお願いするのはどうかという話だ。ダッバーバは頷いてくれるだろうが、ラサーサとセイフは絶対に冷めた目で見て断って来るに決まっている。いや、まあ、それが正しいんだが。
 ルーミィがバトルをしている最中、少し離れたところで様子を見ていた時だ。不意に横から腕が掴まれる感覚に驚きそちらを見れば、可愛らしい仮装をしたゲンガーの姿。その子が仮装をしているから誰かの手持ちであると想像することは容易ではあったが、仮装がなくたって俺はすぐに彼女のことに気付いたことだろう。
 人懐っこく腕に抱き着いてきたその子には覚えしかない。くるくると回る表情に、愛嬌のある仕草。思い出すのは去年の夏だ。調査の際に森で俺が捕獲して、少年に譲渡したゲンガー。
 
「あ……」
 
 アマル、と彼女の名を呼ぶよりも早くに注意の声が届く。久方ぶりに耳にしたからか、それとも別の要因か。その子の声は、以前聞いたものよりも少し低くなっているように感じられた。視線を向けて、理由は明白となった。
 ああ、そうか。あれぐらいの年の子であれば成長はわかりやすく目に見えるものだ。一年前よりも背が伸びて、よくなった体格に若者の成長は早いのだと自分もまだ若い方の部類であることを理解していても感慨深くなってしまう。
 いや待てこれ俺、今の姿。間違いなく気付かれていないどころか、本物のゴロンダだと勘違いされているのではないか。礼儀正しいレゼルのことだ。知り合いにあったらまずは挨拶をしてくるだろうという考えが思考を過ぎり、手っ取り早く自分がガラドだと証明するためにまずは着ぐるみを脱がなければ、と思い立った瞬間。以前よりも格段に重みが増したそれが振りかかって___ああ、成長したのは相棒もだったかと更なる感慨深さを抱いた。多分親戚の叔父の気持ちってこんな感じなんだろうな、とも。
 
 傍から見ればゴロンダの周囲にポケモン達が集う様になっていて、その光景はポケモン同士仲睦まじいものだと微笑ましいものだろう。まだ俺だと気付いていないレゼルが慌てた様子でポケモン達を制止するための声をかけるのも、この状況も、おかしくて楽しくて仕方がなかった。
 だからこそ思わず笑みが零れてしまったし、流石にアマルにもプリュムにも気付かれてしまっているなら誤魔化すのは不可能だ。ミィミとドーンの時といい、ポケモンの目と鼻を誤魔化すことは出来ないなと思うと同時、気付いてもらえて嬉しいと思ってしまうのはおかしいだろうか。
 
「ええよ、気にせんで。プリュム、ちょい揺れるで」
 
 重みが増したということはと考えながら、着ぐるみの上に乗っているプリュムを落とさないようにと俺は慎重に被り物を外す。熱さで蒸れていた空間が解放されて、久しぶりに肌で感じた空気は実に心地よいものだった。
 被り物を外してその上に乗ったままのプリュムを見れば、案の定モクローからの進化を遂げていた。進化を果たすまでにこの一年で成長したのだと思うと純粋に微笑ましい。俺は足元に駆け寄ってきていたイーブイを右腕で抱き上げて、レゼルの方を向き直った。
 
「えっ」
「久しぶりやなあ」
 
 わかりにくい恰好しとったよな、と続けて苦笑を零せば中にいた俺の顔を見たレゼルがすぐにはっとした表情を見せる。ああ、やはり彼も忘れずにいてくれた。それが、今のこの立場になってしまったからかとても嬉しく思えてしまう。
 
「ガラドさん?どうして着ぐるみを……」
「や、まあ色々あって……」
 
 実際にはただの金欠で、それを解消するためにこのイベントに参加しているのを知り合いに見られたくないといった実に愚かな理由でしかないのだが。
 レゼルの方に近寄りつつ、咄嗟にやろうとしたことが両腕が塞がっていることで出来ないことに気付く。プリュムが乗った被り物とイーブイを地面にそっと下ろして、自由になった右腕を伸ばす。その位置も、高くなったと理解出来てしまう。
 
「大きなったなあ」
 
 自然の行動だった。単純に成長した彼の姿が見れて嬉しかったのだろうし、また会えたことも嬉しかったし、こちらを覚えていてくれたことも嬉しかった。だから普段は気にしているパーソナルスペースを考えずにそんなことをしてしまった。
 整えられた髪を崩してしまわない程度にレゼルの頭をぽんと軽く撫でる。本当にまるで親戚のような感覚だった。

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