水面下の想い【sideグリモア】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テラーさん
 
 
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 やっぱり、この人は不思議なことばかりだ、とグリモアは思う。いい子だなんて家にいた時に一度も言われたことはない。グリモア自身も自分のことをいい子だなんて思ったことはない。
 やさしいのもいい子なのも、グリモアではなくテラーだろうにとしか思えない。わからないと答えるグリモアに不満そうな色を見せないのも、やさしい言葉も声音も揺らがせないのも。そういった仕草をする人を、どうしてそうではないといえようか。
 テラーが何を言い淀んだのか、グリモアには予想が出来ない。グリモアには人がわからない。人が何を考えているのか、何をすれば喜ぶのかわからない。わかろうとしていないだけなのか、わかる環境に身を置いていなかったからなのか。それらは全て、明確にはなっていない。
 
「今、連れてきているのはキマリスとイポスとフォカロル」
「うんうん。さっきのすごかった子」
「あと、ポケモンセンターで待たせているのが二匹」
「お、どんな子達なんだ?」
 
 考える。彼らはどういった子達なのかを。考えて、いや、考える間もなくすぐに答えは出た。
 
「バンバドロのオロバスは、俺のはじめての手持ちで。兄みたいな感じ」
「兄?」
 
 グリモアは頷いてから、続けた。テラーが首を傾げた際に揺れたその人の美しく真っ直ぐな長髪に手を伸ばそうとしているキマリスの手を握って止めながら。
 
「ずっと横にいたのは、オロバス。ずっと一緒」
 
 グリモアが生まれた時からグリモアを見守ってくれているのはフォカロルで違いないのだが、フォカロルは常に一線を引いたところからグリモアを見守っている。父よ呼ぶには相応しいが、友と呼ぶにはどこか遠い。そんなポケモンだ。だからこそ、一番自分とともにいて、距離が近かったのはと考えればグリモアにとてはオロバスであり、その在り方は兄のようにも思えた。
 
「仲良しなんだな」
「?」
「仲良しで、それでいてすごい大切にしてるのが伝わってくる」
 
 ふふ、とどこか楽しそうで、嬉しそうにテラーが微笑んでいるような気がする。その表情はまるで のようで。けれどもそれを考えることすらも失礼に感じられて、胸がざわついた。
 重ねてはいけない。だって。それは。テラーに失礼だ。
 
「……ポケモンとは、一緒にいやすい」
 
 だから、と先程テラーから貰った空のムーンボールを取り出してグリモアは続けた。
 
「捕まえたら、見せる」
 
 手持ちたちの話を楽しそうに聞いてくれたテラーなら、新しい仲間の話も楽しくきっと聞いてくれる。そう思ったからなのか、それとも別の理由なのか。グリモアにはわからない。
 けれどもただ、純粋にそう口にした。 

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