華は枯れた【sideミィレン】

■お借りしました:ダヴィドさん

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 肩を抱くその手の温もりに、目の前に近寄った顔に苛立たない訳がない。
 差し出された花にフラベベから奪ってきたんじゃないでしょうねと胡乱な視線を向けてしまう。この男なら、やりかねない。

「離してくれないかしら」
「つれないなぁ。そんな君の顔も素敵だけど。どうだい?食事でも」
「アイを返してくれるなら乗ってあげてもいいわよ」
「ははっ、まさか!」

 殴り飛ばすぞこの野郎。苛苛が募っていく。それでも今日は疲れているからこそこいつに怒りの感情を裂く余裕すらありやしない。

「花は好きだったじゃあないか」

 結局私の肩を離すことなくダヴィは歩き出す。夜の街は昼とは違った明るさと賑わいがある。最も私は最近夜ばかり認識しているから、昼の記憶はうろ覚えなのだが。
 私が受け取らなかった花をぽい、と適当に放り投げてダヴィは私の身を寄せる。鼻にこびり付くようなその香水の匂いが、大嫌いだ。

「昔の話よ」
「そうかい?」

 思い出す。この男が私に薔薇の花を贈ってきた日のことを。若くて愚かだった私はこの男の策にまんまと嵌り、それを嬉しさと共に受け取ってしまったのだ。
 初恋だった。愚かなぐらい安直で、わかりやすくて。慣れない初めての恋に溺れた。
 そんな自分をこの男はずっと愉しく嘲笑っていたのだろうと今になってはわかる訳で、やはり立たない腹はない。

「残念だ」

 空いている片手で薔薇のカードを一枚取り出し私の目の前に。じとり、とそれを眺めていると頭部に感触が当たる。唇が触れ合ったそれにぞくり、と悪寒が沸き立つ。
 反射でヒールで踏みつけようと脚を振り下ろしたが、それも予想は出来ていたようで相手はすんなりとかわし、私に一輪の薔薇を差し出した。

「好きだっただろう?」

 薔薇のカードは一輪の薔薇へと姿を変えている。私が好きだった、愛していた薔薇の花。真っ赤なそれが愛情を伝えるものだと信じきっていた過去が、酷く愚かで仕方がない。
 私は一輪の薔薇を奪い取り、ダヴィの唇に押し当てた。

「だいっきらいよ」

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