好奇心は夢を刻む【sideゼブライカ・リピス】

■お借りしました:ベリルさん

------------------------------------------------------------


 纏う衣類は異なれど、最後に見た時と容姿はさほどの変わりがなかった。共にいるポケモンは変わっていたが、それでも見知った人物の、その人が変わっていないことに酷く安堵した。
 懐かしいものだ。貴方はあの時から、ずっとやさしい色を称えたまま。
 

***
 

 会場を歩いていると、不意にゼブライカが立ち止まった。どうしたのかと視線を向ければ一点を見つめていることに気付く。つられて視線を向ければ、何度も何度もポスターや新聞で見たことのある人物が立っていた。
 グリトニルジムのジムリーダー、ベリル。法を司る裁定者。

 その人を見た瞬間、呼吸が止まった。時が止まったかのように周囲の音が、匂いが全て掻き消えて、紛れもなくわたしの視線はその人に留められた。
 見たのはわたしでしかないというのに、どうしてそうなったのかはわからない程にわたしは、その人に惹かれた。

 思わず走り出してその人の手を取った。その人はきょとんとした様子でわたしを見下ろしたかと思うと、一瞬何か示唆した様子を見せる。けれどそんなこと気にならないぐらいにわたしは、我を忘れていた。

「ジムリーダーベリル」
「……。ああ、そうじゃよ」

 一拍の間に彼は何を考えたのだろう。彼はわたしを見下ろすその目で何を想っているのだろう。思考したい、考えを探りたい。けれどもそれすらも出来ない自分がここにいる。
 深呼吸を一つ。わたしは珍しく言葉選びに緊張を重ねて、音が震えないように声を出す。

「お願いがあるの」
「何だい?」

 まるで全てを見透かしているかのように、その人はわたしを見据えた。きっとわたしが今どうしようもない程の衝動に突き動かされて、ただただ一心不乱に声を紡いでいるのすら、彼は見抜いている。

「わたしたちと、ポケモンバトルをしてほしいの」

 ここはジムではない。彼は今休暇としてここに来ている。そんな場でバトルを挑むなんて失礼極まりない。それにわたしの今の実力では彼に勝てないということなんて、わかりきっている。これは無意味でしかない我儘な挑戦だ。
 けれど、だけれど。心が叫んでいる。

 この人とバトルがしたいと。


***


 衝動的なところは母譲り。執着心は父譲り。本当に両親の血を濃く継いだものだ、と。ベリルの手を握ったまま離さない、母を思わせる様に思わず笑みが零れた。
 リピス嬢をじっと見つめていたベリルが一瞬私の方を見たものだから、私はあの時のように頭を下げた。
 初対面時、ベリルの人柄のよさにすぐに懐いて腕に抱きついて離れなかった彼女の行為に、彼女に代わって頭を下げた時のように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?