後の愉しみの一つ【sideシャッル】

▼過去の話です。
 ※緩いですがポケモンに対して酷い扱い・痛めつける描写がありますので御注意ください。
  
■お借りしました:ミランダさん
 
 
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 右腕をなくして療養と訓練を一年程終えた頃だった。ポケモン達の補佐があるとはいえ片腕をなくした状態で今までのまま動くことは難しい、と俺はやり方を変えることに決めた。
 直接手を下すのではなく、裏方に回ろうと。別に難しいことではなかった。少しばかりコツを掴んでしまえば簡単に出来たことだ。けれどもそちら側にやり方をシフトしていくのであれば一人ではなく純粋なパートナーがいたら楽だろう、と踏んだ。
 だからこそ俺は実力のある人材を探した。探させた。それによって得られたミランダは非常にやりやすい相手で、自分の目に間違いはなかったと再認識させてくれた。
 
「貴方が出る意味あったのかしら」
「リハビリがてらっちゅうのと、片腕ぐらい使えんくともこんぐらいは出来る男の方が仕事相手としては安心やろ?」
「……そうね」
 
 ラプラスの群れを食い荒らすように襲えば、残るは横たわる弱い生き物の姿だけだ。希少なポケモンであるラプラスは人間の言葉を理解出来る高い知能を持つ。それにより乱獲の対象となっていたものの近年では保護活動の推進の影響で逆に数が増えるといった、生態系への悪影響を及ぼしたポケモン。
 それでも今でもコレクターは減っていないし、ラプラスを求める人間は沢山いる。だからこそ増えてくれてありがとうとしかこちらは言いようがないのだ。
 保護活動とやらのおかげで、随分と危機感が薄れた群れがこうして生まれてくれるのだから。
 リハビリも兼ねて乱獲にきたのだが思った以上に強さもなく、逃げ足も遅いものだから逆に拍子抜けしてしまった。カルト一匹で全てを終えられたのと、片腕になっても問題なくボールを扱える様子は彼女の中の評価ではどの程度になったのだろうか。何でもいい、が率直な感想でしかないのだが。
 
 さて、いくらぐらいになるだろうかと倒れるラプラスの群れにボールを投げて捕獲していっていると、一匹だけしぶといラプラスがいることに気付いた。そいつは傷だらけになった身体で、震えながらも首を持ち上げてこちらを憎々し気に見上げていた。
 へえ、と思わず面白くなってカルトに視線を向ければ、それだけで全てを理解したカルトは愉しそうに火炎をラプラス目がけて吐き出す。技を吐き出す余力すらなかったらしい。真正面から火炎に呑み込まれたそれは、その場に再び崩れ落ちる。それでもまだこちらを睨む目はそのままなのだから、純粋な好奇心が湧いた。
 
 今こいつだけ逃がしてやったら、こいつはこの後どんな風に生きるのだろうかと。
 自分以外の群れの仲間は皆囚われる中唯一逃された怒りか、苦しみか、悲しみか、恨みか憎しみか。どんな感情がこいつを支配し、苛み続けるのだろうかと考えると自然と口角が上がる。
 俺とカルトを憎み探し求めるだろうか、恐れて逃げ回るだろうか、一匹の孤独に耐えられなくなってこの世を去るだろうか。何にせよ、面白い。
 
「シャッル。それは?」
「ああ、それはいらんな」
 
 俺がただじっとラプラスを見ていたからだろう。ミランダが淡々と尋ねてくる。俺は首を横に振って、ミランダの手を左手で軽く引いた。それに彼女が無表情のまま視線を寄越してくるが、俺は気にすることなく促す。彼女は何を言うでもなく俺同様にカルトの背に乗った。
 十分に金になるだけのラプラスは手に入れられたし、リハビリもすんだ。後は、とこちらを憎々し気に見上げるラプラスを見下ろして笑うだけだ。
 
「可哀想やこと」
 
 同時にカルトも一鳴きして、どうせ俺と同じことをあのラプラスに告げていたのだろう。憤怒の色か、羞恥の色か。何にせよ染まったその赤の色が見れたことに満足して、俺達はその場を後にして悠々とした飛行旅行に繰り出したのだった。

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