不器用な青【sideグリモア】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テラーさん
 
 
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 この人もまた変な人だ、と失礼な感想をグリモアは抱いた。
 バトルは引き分けとなりチップの移動はない。引き分けとなったことを悔しく思ったり残念がったりすることはなく、テラーはグリモアに対して無感情な子ではないことがわかってよかったと口にした。
 変な人だ。知り合ったばかりの、それもこんな無表情でコミュニケーションのとりにくい失礼な態度ばかりの子どもに不満そうな態度をとらないことも、やさしい声をかけてくれることも。
 
 渡されたムーンボールを手のひらに乗せたまま見上げれば、頭がやさしく撫でられる。頭を撫でられるのは、今まで生きてきてこれで二度目だ。一度目はテイが撫でてきて、いや、撫でるというよりかは髪を酷くぐちゃぐちゃにされた。それでもそこには負の感情はなかった。
 そして今テラーによってやさしく頭が撫でられた。その感覚がやはり自分には縁のないものだと思っているからこそ、不思議で仕方がなかった。
 
「グリモア」
「グリモアな。かわいい名前じゃん」
 
 そういえば名前を名乗っていなかった。純粋に名乗るのを忘れていたグリモアはテラーの気遣いに首を横に振ってから、あっさりと名を名乗る。それにまたやさしく甘い声音と表情が落とされるものだから、グリモアは不思議で不思議で仕方がなかった。
 父も母も。こんな声を自らに向けたことはないからだ。
 
「……ボール。ありがとう」
 
 手のひらに乗せたままだったボールを一度見てから、再びテラーを見上げる。テラーの肩でくったりと力なく顔を伏せているシュテルの顔は見えないから、何を考えているのかはわからない。
 思い出す。お節介な大男が言っていたことを。
 
 ”ならもうちったぁ嬉しそうにするとか、上辺だけでもサービス有難がるとか、そういう努力をしろよな。余計な敵作るぜ”
 
 彼の言うことは難しかった。けれども、拗ねていた様子からして彼は傷ついていたのかもしれないと思った。だから、少しぐらいは努力をしようとグリモアもそれ以降人と接する時には一応頭の片隅に置くようにしていたのだ。
 だからこそ今回は、ちゃんと礼を言おうと努力した。バトルをしてくれたこともボールを貰えたことも嫌ではない、有難いことだ。だからこそグリモアはようやっと口にすることが出来た。生まれてはじめての、人に対する”ありがとう”という発言を。
 
「………ボールは、使う」
 
 未だ決めかねている今回の旅の最後の手持ちの一匹。そのポケモンを捕獲する特には、あの夜空を思い出すこの月のボールを使おうと決めた。端的にでも告げれば、テラーがまたやさしく笑ってくれたような気がした。
 
 
 はじめて見た真昼の星も、不思議な感覚だった。その不思議な感覚が、___美しいと感じた心だなんてことには、流石にまだ成長途中のグリモアにはわからない。
 けれども悪くはなかったことは確かで、テラーに頷いたことが全ての答えだったのだ。

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