花卵とトレーナー【sideレフティア】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:ミユキくん、タマちゃん
  
  
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 ジムトレーナーをイヴェールから依頼された時のレフティアに芽生えたものは嬉しさと光栄さと、自らに務まるだろうかというほんの少しの不安だった。
 
 
 沢山の花束を抱えながらベンチに座っていた存在に思わず視線が向いた。抱えすぎた花束によって顔は半分ほど埋め尽くされているその光景は、この祭りの趣旨を考えれば微笑ましいものだ。しかしその微笑ましさに笑顔を零しつつも、僅かに覗いた顔と髪と帽子が記憶にある子のものだったから。思わず声をかけてしまえばその子はやはりフィンブルタウンでレフティアが旅立ちを見送ったミユキに違いなかった。
 旅に出るということは大きな冒険だ。レフティアは旅に出たことはないが、イヴェールが聞かせてくれた冒険譚はいつだって楽しく素敵なものだった。しかしそれでも旅というものには危険も付き纏う。人馴れしたポケモンとは違い、野生のポケモン達は人間を襲う。だからこそフィンブルの大人たちも子ども達には自分のポケモンを持たないで草むらに入ってはいけないよと口酸っぱくするのだ。
 
 ミユキが旅に出ることは勿論嬉しいことだった。応援だってしている。けれども、そういった危険にはあっていないか、辛い想いはしていないかと不安だったのだ。
 そんなレフティアの杞憂をよそに、ミユキから差し出されたグラシデアの花束と言葉にレフティアは感動のあまり泣きそうになった。
 グラシデアの花色に頬を染めて柔らかく笑うミユキに、本当に心根がやさしく素敵な子だとレフティアは再認識する。そして旅立ちの時にレフティアが告げた言葉に対して、彼は今こうして自分がジムトレーナーを務めるフィンブルタウンのジムに行くと告げてくれたのだ。
 思わぶ目を細めて笑んでしまう。嬉しくて嬉しくて安心して。自分の言葉が彼の負荷になっていなくてよかったと。前向きに笑う彼に色鮮やかな未来が見えた気がして。
 これは自分もジムトレーナーとしての立場に不安なんて抱いている場合ではない。素敵なチャレンジャーが来るその日までに、ジムトレーナーとして彼の前に立てるようにならないと。ミユキの真っ直ぐな純心さにつられて、レフティアも決意に満ちた。
 
 そして今、レフティアは手にした卵を慎重に抱き上げながら博士の言葉を思い出していた。グラシデアの花束にそっと隠れていた卵は大きさからして恐らくポケモンの卵だ。それも時空の歪みによって大量発生した。グラシデアの卵かというミユキの発想はあまりに可愛すぎて頬が緩み博士の言葉すら忘れてしまうほどだったが、なんとか思い出すことが出来た。
 
「こちらはおそらく今現在博士が回収をお願いしているポケモンの卵かと」
「博士……?」
「はい。パパラチア博士といって、今こちらの町にいらしてるのですが、こういったポケモンの卵が今この町では至る所で大量に発生しているのです」
「なら、博士んとこに持っていきますだ」
 
 人のいいミユキがそう言うのは納得がいく。この子は間違いなく卵を博士のところに届けてくれるだろうと。
 ふと、レフティアは風船に括り付けられ宙を浮いているタマちゃんの手を引いて遊んでいるテュッキュを見た。タマちゃんの様子が気になりすぎて構ってちゃんをしているあの子も元々はそこにいたのだ。
 幼い頃にゴーシェとアニーニケから貰ったポケモンの卵。それらの一つからテュッキュは生まれた。その時のことは今でも鮮明に覚えている。小さくて弱々しくて、それでいて確かな命が芽吹いた奇跡的な瞬間。目と目とがあって、こちらを見つめる濁りない氷のような透き通った瞳。その時生まれた愛おしいという感情は、一生薄れることは無い。
 
「ふふ、ミユキさま」
「?何ですだ?」
「パパラチア博士は回収を行ってはいますが、もしも希望するなら見つけた方御自身で卵を孵してもいいと仰ってくださっているのです」
 
 何が言いたいのだろうかといったミユキの視線が向けられて、レフティアは卵をやさしく撫でながらミユキへと差し出した。
 
「もしもミユキさまが望むのならば、この子とともに旅をするのも素敵だなと思ってしまいまして」
 
 見たところミユキの手持ちは未だタマちゃんだけのように思えた。旅の仲間は多ければ多い程楽しいのだと聞いている。これもまたイヴェールからの受け売りに過ぎないのだが。
 それに自らの手で卵を孵すという経験はけして悪いものにはなりはしない。彼のトレーナーとしての成長に繋がる一つの要素にもなるのではないかと。
 彼の旅路が更なる色に溢れ輝くことを祈れば、そう提案してしまうのだった。
 


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