華【sideホアンシー・キマリス】

こちらこちらの続きの話。
 
■存在だけになってしまいましたがお借りしました:ココくん
 
 
------------------------------------------------------------
 
 
 ずっとずっと、見守っている。そばにいる。それがミィレンに捕獲されるよりももっともっと前、____彼女が生まれる前からだと知れば、彼女はどんな顔をするのだろうか。
 
 
 火柱が燃え上がる。一つ、また一つと階段を組み立てていくかのように燃え上がる長さの違う火柱。その中心地にいるのは飛び入りでパフォーマンスに参加したミーであり、今回の相棒を務めているのはユワンだ。
 はじめて身にまとった浴衣の裾を持ち上げて、軽やかなステップでミーは火柱の階段に足を踏み出す。燃えてしまうと思われたミーの足はけして燃えやしない。何故ならコンジュが張ったリフレクターが炎のすぐ上に存在しており、ミーはそこを歩いているだけにすぎないのだから。
 
 火柱の階段の頂点まで辿り着いたミーがくるりと振り返り満面の笑みを見せると同時、彼女を多い囲むようにユワンがとぐろを巻いた。
 炎の大百足の中心地で彼女はユワンを撫でる。彼女が恐れる炎は別にあり、ユワンの炎を彼女は恐れない。ユワンと目と目を合わせたと同時にミーが信頼しきったように目を閉ざす。
 同じようにユワンも目を閉ざして、すぐに開けて空へ向かって大きな大きな炎を吐き出す。空へと放たれた巨大な力は宙で留まり、弾ける。数多の火の粉がステージの上へと降り注ぐ様は炎の流星群だった。
 
 沢山の拍手の中ミーは手を振りながら炎の階段を降りてくる。満足したようで、ステージを降りようとした矢先。小さな身体がステージによじ登りミーまで駆けていった。
 それはデスマスのお面をつけたヨーギラスだった。その子はミーに飛びつくときらきらした眼差しでミーを見上げている。
 
「君達もパフォーマンスしたいの?」
 
 達、というのはヨーギラスの後にミーの元まで飛んで行った色違いのココガラを指しての発言だ。こちらもまた同じお面をつけている。流行っているのだろうか。
 ミーは一旦ステージから降りて二匹の頭を撫でる。きょろきょろと周囲を見渡す動作をしたのは、彼らがお面をつけているが故に誰かの手持ちだと当たりをつけたからだろう。
 そのままちょうど自分とも目が合ったため、ふらふらしながら自分もミーの方へ向かった。
 
「ふふ、素敵なお面」
 
 二匹がつけていたお面を指でなぞりながらミーは笑う。褒められたのが嬉しいのかヨーギラスとココガラも楽しそうな反応を見せた。
 
 それはそれとして、トレーナーは一体どこにいるのだろうか。
 
 
***
 
 
 旅に出るもっともっと前のこと。母は昔の話をいくつかしてくれた。
 元々グリモアの父の手持ちではなかったこと。一人の女性の手持ちであったこと。とある事故があって母は本来の手持ちの元から離れざるをえなくなってしまい、グリモアの父の手持ちとして共に行動するようになったのだと。
 何でも母の元トレーナーはとても美しい金の髪を持つ人で、美しい演出を行うことが好きだったらしい。ポケモンバトルは苦手で、母にはバトルをさせてあげれなくてよく謝ってきていたらしい。けれども母はバトルをしない生活でも満足だったそうだ。自分なら絶対に耐えられないとぶすくれた時に、母は本当に素敵なものを見れば理由がわかると笑っていた。
 
 その言葉の意味を、今俺ははじめて理解した。
 
 デスマスのお面を買ってもらって、沢山の人に見て欲しくて勢いでココガラのココを連れて駆け出した。一匹だとつまらないと思ったし、一緒にいるのが楽しかったからという単純な理由だ。
 そうして、炎が宙に浮かぶ姿を見た。それはバトルで見たような炎の形とは全然違っていて、空に放たれた炎は花火のように弾けて降り注いだのだ。
 降りてくる火の粉の一つ一つが細かくて、綺麗で。触れても熱さもなくて。
 思わず視線を下ろせば、炎の階段を降りてくる橙髪の女性がいた。あの人と後ろにいるマルヤクデがさっきの花火を生み出したのだろうかとか、階段を降りる度に響く小気味いい音は近くにいるドーミラーのおかげなのだろうかとか。色々なことが思考を過ぎったが素直な感想としては、もっと見たいだった。
 
 居てもたってもいられず、俺はステージをよじ登ってその人に抱きついたのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?