密閉した感情【sideサラギ】

■お借りしました:イチカちゃん


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 赤の薔薇を中心に白の花を添える。花弁を小瓶に詰めてハーバリウムへと仕上げたそれに白のリボンを巻き付けて、俺はイチカへと差し出した。
 そうすればやはり疑問の色を浮かべた目で条件反射のように見上げられる。

「何これ」
「ホワイトデー。バレンタインデーのお返し」
「……ふうん」

 僅かに目を反らしながらも俺が差し出した小瓶をイチカは受け取った。彼女の掌サイズのそれは酷く小さく、重さだってそうそうない。

「珍しいの」
「手作りだしな」
「……え?」
「薔薇を買った後からだけどな」

 小瓶を渡したことで手が空いた。俺は胸ポケットからライターと煙草を取り出すと煙草に火をつけて口に咥えた。吸い込んだ苦さが肺を汚す。それに落ち着きを抱いている俺はもうとっくに手遅れな中毒者だろうよ。

「お前も今年は手作りだったろ。だから同じように手作りしたんだよ」
「こんなのも作れるのあんた……」
「お前と違って器用だからな」

 からかえばむすくれた様子を見せる顔に煙を軽く吹きかける。煙を払いのけながらちょっと!と咳き込むイチカにどうしても笑みが零れた。

「いらないなら捨ててくるけど」
「そんなこと……言ってないし……」
「そりゃあどうも」

 煙草を口に咥えて、イチカへと手を伸ばす。煙を払いのけた際に崩れてしまった髪を軽く整えてやればその頬には僅かに色がのって、小瓶の中身の色にそっくりだと思った。

 使用した薔薇は一本。一本の薔薇を贈る意味なんて知らなくてもいいし、知っていてもいい。ただあまりにもわかりやすいものはつまらないと思ったし、風化させるのは気分じゃなかったから容器に密閉した。

「イチカ」
「……何」

 髪を整えていた手を滑らせて、色がのった頬に指を添える。照れながらもこちらを見上げてくる様子に小さな笑みを零して、何でもないと嘘をつく。
 これ以上言うと耐えられないだろうしな、と見越して。

 密閉した容器の中、花弁たちの中に静かに忍ばせた赤の宝石には永遠に気付かないでいい。

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