心の膜【sideリピス】
■お借りしました:ベリルさん
大きくてやわらかくて、とてもとてもやさしい手。慈しむようにそっとわたしの頭の後ろに回されたそれに引き寄せられて、おおきなベリルに抱き締められる。苦しくはない。痛くだってない。ただその人は羽で包むかのようにわたしを抱きしめる。
痛くないのよ。苦しくだってないの。それなのに、どうしてこんなにも胸が、音を立てるの。
目頭が熱くなる。つん、と鼻が苦しくなる。あたたかい、あたたかいのだ。あたたか、すぎたのだ。
ほんの一瞬だけ、ベリルのものとは思えない大地の香りがしたような気がして。
それが、それを。わたしは、酷く愛おしく思った。
思わずぎゅう、とベリルの首に腕を回して抱き着いた。大きすぎるその人にはめいっぱい腕を回して、漸く手が届く。
言伝ってなあに?会って欲しい人って誰?気になる、とっても気になるわ。でも、不思議とそれをベリルに追求しようという気持ちにはなれなかった。
すいていた。ずっとずっとすいていたの。愛に空いて、好いていた。
ぽっかりと胸に空き続けたそれが苦しくて苦しくて、ひとらしくなりたくて、愛を求めた。
ばけものだと思っているの。わたしはわたしのことを。
だってわたしは自分のことしか考えられない。他人の気持ちに寄り添うことなんて出来ない。
その歳に見合った子供らしさなんて持ち合わせていないし、__父と母へ不信感すら持っている。
愛を求めたの。特別な愛が。わたしが欲しい愛だけを求めた。手に入ることなんて絶対にないと思っていたのに。
どうしてこんなにも、今わたしは泣いていて、胸があたたかいの。
穴の空いたコップの底にそっと、あたたかい鋼の膜が置かれた気がして。そこに何かが確かに注がれて。
零れることなく、はじめて溜まった。
「わたし、絶対あなたに再挑戦しにいくわ」
「楽しみだ」
「だからね、絶対の約束をしてちょうだい」
「なんだい?」
「わたしが行くまで、絶対にジムリーダーを辞めちゃあ嫌よ。わたしは、あなたからしかジムバッジ欲しくないもの」
ぎゅうとあたたかすぎるその人に抱きついて、頬を擦り寄らせた。勿論だとも、と微笑んだその人の声に酷く無邪気なこどものような笑顔を零してしまって。
ベリルのように目を細めてわたしは笑って、愛おしいと思えるその人の瞼へとキスを贈る。
「あとね」
「うんうん、なんだい?」
「もう少しだけこうしていたいの」
これはただの我儘でしかない。駄々をこねるようにまたベリルの首に腕を回して抱きつけば、ふわふわの髪が頬を擽った。そのやわらかさに、やっぱりわたしはへにゃりと笑ってしまうのだ。
我儘な甘えん坊。それが母譲りだと、何度も何度も抱き着かれたことのある彼は知っている。
彼女もこうしてずっと、甘えていたのだから。
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