角度は違えど光は同じ【sideクラード・リピス】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:スウィートくん
 
 
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「あいつの幸せは、あんたが決めることじゃない」
 
 遠くにいく後ろ姿をぼんやりと眺める。ずっと自分が持っていたキーストーンは、突き返されることなくスウィートが持って行ってくれた。それが嬉しいと思うのに、寂しいとも思ってしまう。それはあのキーストーンが自分と大切な仲間との絆の形の象徴でもあったからだ。ルーは少し怒るだろうかと、姉のような存在だったヘルガーを思い出してそんなことはないなと笑う。
 だって彼女は世界で一番私のことを理解しているのだから。私がどう行動するかなんて、離れてしまっても理解出来てしまっていることだろう。
 
「辿りつく、か」
 
 完全にスウィートの姿が見えなくなったところで、ぽつりと呟く。落とした言葉は誰に拾われるでもない。拾われることを望まないからこそ、手持ち達も全てボールの中に戻している。
 私はリピスに会いたくはない。会うべきではないとも思っている。だからこそ先程一瞬見れた奇跡を幸福だと思い、こんな幸福は二度とないものだとも理解していた。
 けれども、けれどもだ。
 
「………人間ってのは、本当に愚かな生き物だね」
 
 人間という生き物は、実に欲深い。一度良さを知ってしまうと止められないように、一度あの子の姿を見てしまうと決意が揺らぎそうになる程の愛おしさに襲われてしまっている。
 これから大きくなっていく過程を見守りたいだとか、あの子と共に過ごしてみたいだとか。自分なんかには赦される訳のない愚かな願いがぽつぽつと浮かぶ。
 情けないことだ。私は額を抑えていた手を離して、歩き出す。
 
「……いやでも本当にどういう関係なんだろう………」
 
 さくさくと生い茂る森の中を歩き続けるも、回答をくれるゴーストポケモンなど勿論いる訳がなかった。
 
 
***
 
 
 日が暮れ始めたのを見て、わたしはそろそろこの催しが終わりを迎えそうなのだと理解をする。それと同時に本能が抱くのは、ゴーストタイプ達に対する警戒だ。急がないといけない。わたしはシンに乗って、ビビをしっかりと抱き上げた。
 
「シン、匂いはわかる?」
 
 この言葉だけで賢いシンはすぐに理解したのだろう。こくりと頷いてくれたその様子に本当に賢い子だと思うと同時、この子がわたしの元にきてくれた幸福に感謝する。
 
「助かるわ。お願いね」
 
 とん、とやさしくシンの頭を撫でる。彼女は依然として無表情だったが、僅かにその口角が持ち上げられる。
 その様に驚いたのはわたしだけではなくビビもだったようだ。ぱあと表情を明るくしてわたしの方を見上げて前脚を何度も叩いている。
 
「ふふ、うん、嬉しいわね」
 
 でもそろそろ落ちちゃうわ、とわたしは喜んでいるビビをしっかりと抱きしめてシンの身体にしがみついた。
 
 
 走り続けて、少しして。シンが速度を緩めたのを見て近付いているのだと理解する。となればここからはトレーナーのわたしも目で見て探した方が早い。そう思って周囲を見渡していて、そういえば髪が酷く乱れてしまっているのではないかと思う。走っていたことでフードは落ちてしまっているしで、慌ててわたしは手で髪を梳きなおす。
 不思議そうにわたしを見上げるビビに髪を直してるのよ、と告げてから後悔した。何で髪を、直しているのわたしは。何で。今からすることはイベントが終わるのだから家主と合流してダグシティに帰るだけよ。帰るだけなのだから、身嗜みを整える必要なんて淑女であっても必要ないじゃない。
 というかそれならもう一日中森の中を駆け巡っていたのだから髪の乱れどころじゃない。いやいやこの思考回路がナンセンスだわ。どうして、わたしが、彼に再会するのに、身嗜みを気にしなくちゃいけないの。
 
「……むかつく」
 
 ぐるぐるする。恋というものを自覚してからは、ずっとこうだ。今までは何とも思っていなかったことが、どうしてか気にかかる。彼のことを考えるだけで心臓が浮ついて、終始落ち着かない。必死に取り繕っている態度なんてどうせ気付かれている。わかっている。けれどもこれはわたしなりの抵抗であり、さいごの足掻きなのだ。
 だから、本当に腹が立つ。探していた姿を見つけたら、わかりやすく飛び跳ねた心臓に。喜んだ心に。
 表情が変わらないよう、普段通りを意識してわたしはシンの上から降りた。そしてこちらに気付いて振り向いていた彼の方へとビビを抱き上げたまま近寄る。
 
「お疲れ様かしら」
 
 スウィートはイエローチームだった。人のいいフリをしていたのならきっとまともに取り組んでいただろうと見越してそう告げれば、相変わらずの無表情と落ち着いた視線が寄越される。
 腹が立つのに、その無表情と視線すらも嫌じゃないと思う自分が。本当に、嫌だ。

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