成長した姿で海鳥の唄を【sideリピス】

■お借りしました:カンザシさん
 
 
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 バトルは勝敗だけが全てではないこと。バトルで得られるものは、言語化出来ないぐらいに目映くて輝かしくて大切なものだということを、わたしはそこで学んだ。
 だからだろうか。ずっとずっとノアトゥンジムでの出来事は、一時は。他の人とバトルした時よりもどうしてか贔屓目が強く、心に残っているのは。
 
 だから、嬉しくて仕方がなかった。ジムリーダーもこのイベントに普通に参加していることが。正直な話最初見た時はその人だとはわからなかった。リングが振動音を鳴らしたから別のチームの人間がいることは理解したのだが、視界に収めたその人の装いが以前見た時とは全く異なる洋装だったものだから一瞬人違いかと思ったのだ。目元を覆い隠す仮面もそれを手伝っていたようには思える。けれども注視したら、すぐにその人だとわかった。
 わたしがどんなバトルもたのしいと思えるきっかけになったノアトゥンジムの、ジムリーダーカンザシだと。
 
「カンザシ!」
「ん、……ああ、リピスはんや。お久しゅう」
 
 ああ、やはり彼だ。振り返ったその人と共にいたキングドラも振り返り、こちらを見つめる。ジムチャレンジでは見たことのない顔ぶれだ。おそらくというか、間違いなくわたしの時は初心者用に手持ちの調整がされていたのだろう。初めて見たがその名の通りの気品のある佇まいだ。
 
「ええ、久しぶりに会えて嬉しいわ。……一瞬わからなかったけれども」
「仮装しとるからなぁ。リピスはんも前見た時より随分成長したように見える」
「そうかしら」
 
 そうは口にしたが、確かにノアトゥンジムに挑戦した時よりもわたしの背は伸びている。少しずつ高くなった視界に、手持ち達との背が縮まる様子から自分が成長しているのだということは理解していた。一年もまだ経ってはいないが、子どもの成長は早いだとかもどこかで聞いたような気がする。背伸びをしているだけでないのなら、それは勿論嬉しくある。早く大人になりたいと思っているわたしがいるのだから。
 
「ジムチャレンジはどうなん?」
「まだ違うジムにはいけてないの。あ、でもグリトリルジムのジムリーダーとは野良バトルしてもらったわ」
「それもまたえらい経験しとんなあ」
「負けちゃったけど。でも、やっぱり素敵な経験を得られた」
「……ほんに、成長してはるね」
 
 穏やかな会話の最中、彼がどこか嬉しそうに笑ってくれたような気がした。それはジムバッジとおんがえしのわざマシンを貰った時を彷彿とさせて、ジムチャレンジを応援してくれた彼を思い出す。おんがえしを手持ちに覚えさせるほどにわたしが手持ちたちと信頼関係を築けているか、自信がなくてまだ使ってはいない。けれどもいつかは使いたい。あのわざマシンを手持ちに使って、あの技を使いたいという強い想いがある。
 だから、か。それもあって、か。わたしにとっては、どちらもだ。
 
「成長したかどうか、よかったら確認してもらえないかしら」
 
 おや、というように仮面の下から覗く青の瞳が波のように揺らめいた気がした。
 
「バトルオアトリート、賭け数は十枚。どうかしら?」
 
 みずタイプのエキスパートであるカンザシに有利なタイプ相性を持つゼブライカは今日は連れてきていない。いや、連れてきていたとしてもきっと出さなかった。わたしが彼に再戦するのなら、絶対にこの子にすると決めていた。
 いつも勝手にボールから飛び出してばかりのトトをボールから出せば、身嗜みを整えて嬉しそうで誇らしげにわたしを見てからカンザシを見遣る。いつもバトルで絶対乱れるのに本当にトトは綺麗好きだと思った。
 ノアトゥンの土地で仲間になった子、そしてみずタイプの強さを肌で感じさせてトトに学ばせるいい機会でもある。今日ならばきっと”ジムリーダーとジムチャレンジャーとではない真剣勝負”が出来るのではと思ったら、いてもたってもいられなかった。
 彼から貰った大切なわたしの生まれてはじめてのジムバッジ。海鳥の翼を模した寄り添う名を持つシーサイドバッジをケープにしっかりとつけて、わたしはカンザシを改めて見上げた。
 
 
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▼参加登録ポケモンより、「トト(エンペルト♂)」でカンザシさんにシングルバトルを挑ませて頂きました!
 賭けチップ数は10個にさせて頂いております。
 不都合がありましたら断ってください!

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