わるいこ【sideリピス】

■お借りしました:ダイゴロウ(ゆめきち)さん

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 ユメキチから差し出されたそれを両手で受け取る。用意をしていた理由については深く問いかけることはやめにする。何故ならここでそんな野暮なことを聞くのは、流石にクリスマスらしくないからだ。

「上出来じゃない。ありがたく頂くわ」

 笑みを零して、抱き締めていたデリバードをそっと離す。不機嫌そうに、それでも自分の職務を全うしユメキチへとプレゼントをあげていたその子は満足したようにわたし達から離れ、また別の人たちの元へと駆けていく。

 雪が降る。しんしんと。ただただそうあるべきであるかのように。そうあることが当たり前であるかのように。
 空は薄暗い灰色の雲が広がり、世界全てを覆い尽くすように白を生み出している。

 空から視線を下ろす。貰った箱を開けてみれば、本当にこの人が選んだのかと困惑するぐらいにセンスのいいイヤーフックが収められていた。しんかいのウロコを用いられたそれは淡い桃色の光を反射させ、雨粒のような雫の飾りを揺らしている。指先でなぞれば耳障りのいい音を立てて手元で踊ったそれは、見目も良すぎるものだった。

 わたしはそれを左耳につけてから、常に服の内側で所持していたピアスを取り出す。大切そうに隠されていた三つのピアス。金が二つと銀が一つ。大切そうに仕舞われてはいたものの、それらは使い古されたものだという印象を受けた。

「嬢ちゃんピアス開けてたのか」
「しらじらしいわね。わたしのピアス穴ぐらいあなたなら見つけていたでしょうに」
「ガキんちょを注視する趣味はねえよ」
「ただの子どもなら、でしょう」

 けれどもそこまで興味はない、というのは正解だろう。わたしはユメキチへと言葉を返しながら銀のピアスをくるりと手元で回す。
 綴られた文字。それは何かの言葉か単語か、それともこのピアスの本来の持ち主か。

「カヤール・スィラーフ」

 記されている文字を読み解くのには長い時間がかかった。薄れていたり剥げていたそれは、こんな小さなピアスに彫られていたこともあって余計に読みづらくて仕方がなかったのだ。

「誰だァそれ」
「さあ。わたしにこのピアスを盗まれた人かもしれないわね」

 三つのピアス。盗み出したそれらを左耳へ全て嵌める。金と銀が桃の前できらきらと揺れる。四つもの装具を身に着けたわたしの左耳は今は酷く騒がしいに違いない。けれども、今日はこのままでありたいと思った。

「ユメキチ、甘いものが食べたいわ」
「はいはい。んじゃ次の店な」

 盗んだピアスと、貰ったイヤーフックがわたしの左耳で音を鳴らす。
 罪人。傲慢者。搾取者。様々な非難がそこから聞こえるようでいて、わたしはそれに安堵する。
 わたしは、いいこなんかじゃあないもの。

 ユメキチの手を握って歩き出す。握った彼の手は大きすぎて厚くて、悔しくなるぐらいあたたかかった。

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