アリスのお茶会【sideリピス】
▼こちらの流れをお借りしています。
■お借りしました:スウィートくん
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「それが嫌なら旅なんて諦めろ」
ユイトから告げられた内容を反芻していると、トドメだとばかりに告げられた。
わかっている。ユイトが善人とは遠い人間であることも、その手を罪に濡らしていることも。そもそも初対面が犯行現場を目撃したようなものだったのだ。
わたしはユイトのことを全ては知らない。名前だって知ったばかりで彼のことなんて知らないことの方が多い。それでもわたしは彼を求めたし、彼を好きになってしまった。この点に関しては思い通りにいかなかった己の感情に驚くばかりだが、認めない訳にもいかない。やはり未だに悔しいが。
彼の悪事を見て見ぬふりをしろと言われていることなんてすぐにわかった。あとはわたしの感情の問題だ。
目の前で悪事を行う彼を見逃す?嫌だと反射で思った理由は二つあった。一つは被害者を出したくないから。もう一つは彼が悪事を働くのが嫌だから。そんな風に思う日が来るなんて誰が思っただろう。押し付けがましい勝手な世話だ。それでもわたしの中でその感情は半分程埋まってしまっていたのだから、もうどうしようもない。
だからわたしが返せる答えは、たった一つだ。
「……邪魔はしないわ。でも、目を逸らしもしない」
「つまり?」
「わたし、わからないことがあると知りたくなるの」
ユイトの眉が僅かに揺れる。それでも安定の無表情なのだから、まるで鏡でも見ているかのようだと偶に思ってしまう。
「逃げるような真似は嫌。あなたのすることを見ないでいるわたしは悪い子。それなら、酷い子になる」
どのみち選択肢なんてないに等しかった。けれども本心を口にすれば嫌そうな顔をされると思ったから、あえて遠回しにわたしは告げる。
彼が悪事を働く理由を知りたい。もしそこに理由があるのならば何か手伝いになれないかという、たったそれだけの我儘。
そのために何をすべきかなんて決まっている。
「目なんて、離してやらないわ」
わざわざ屈んでまでくれていたのだ。それならわたしがとる行動なんて一つに決まっている。満面の笑みを浮かべてから、首の後ろに手を伸ばして捕まえるかのように彼に抱き着いた。
少しは意趣返しが出来ていればいいのだが。そんな風に思いながら熱くなる頬には気付かないフリをして、誤魔化すようにわたしは適当な話題を口にした。
「あ、三月二日はわたしの誕生日なの。プレゼント待ってるわね」
普段であれば絶対言えないようなことを。
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