世界の華【side ALL】

■自キャラだけの独白です。


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 時の針が揺れ動き、刻が進んだと同時この世の夜空は満天の華に彩られはじめた。街中のあちらこちらからロケット花火が打ち上げられるそれこそが、このコランダ地方での年末年始での祝いなのだ。






 空に打ち上がる華の美しさに傲慢者は見蕩れた。その瞳に鮮やかな変化の華を忘れてしまわぬようにとしっかりと映し込む。
 横に立つ護衛の手をしっかりと握り締めた。その手が握り返してくることは勿論ありはしない。
 それでも、それでも。この華を見上げたことが記憶の偽りではないことを証明するように、傲慢者は護衛の手を握りしめた。
 傲り高ぶる自らの虚偽の記憶でないことを願い、祈り。ただ、そうした。



 打ち上がるそれを眺めて強欲者は祈願した。どうかこの年が恙無く終わり、新たな年もまた平穏であるようにと。
 己のような偽善の塊のような存在の願いがどこまで空に、世界に届くかはわかりはしない。
 それでも、だからこそ。欲深な強欲者であるからこそ、愚かにも願ったっていいではないかと空を見上げる。
 愚直な程に真っ直ぐな自己満足を掲げ、この世界の平穏を願う。ただ、そうした。



 打ち上がる華々を喧しくて他ならないと嫉妬者は辟易した。このようなことをせずにいられない在り方が根本的に相容れなかった。
 華は美しい、それは確かだ。しかしそれを生み出したものは所詮人にほかならない。
 だからこそ、ゆえに。醜き嫉妬者はそれを羨ましがるしかない。そうあることでしか在れない存在であることを誇示するように。
 いつの日も変わらぬ嫉みを孕み続け、己の在り方の馬鹿馬鹿しさに嘆息する。ただ、そうした。



 空に上がり続けるそれに憤怒者は泣きそうになった。あまりにも美しすぎるそれが己からはかけ離れたものでしかなかったからだ。
 美しいそれをただ美しいと断言出来なくなった己が哀しく、苦しく、苛立ちの対象だった。
 ゆえに、しかし。憤怒者は華に憤怒を抱くことなどしたくなかった。空と地、華と人は何もかもが違う。だからこそ、切り離して考えたのだ。
 いつの日か憤怒に疲れた己が、白き想いで宙を見上げる日がくることを望む。ただ、そうした。



 打ち上がった華の美しさに色欲者は未来を夢見た。星に願うように華へと願った。どうか永劫幸福が続かんことをと。
 幸福と平穏を願い、繁栄を望む。それが在るべき姿であり何の抗議もありはしない。
 しかし、でも。空を彩る華々の色が多種多様で美しくあるように、色欲者も美しい華に彩られることを願ってしまう。
 それだけが小さな色欲の望みであり、最大の我儘でも。ただ、そうした。



 空を彩る華を、暴食者はいつもの如く美しいと思い喰らいたくなった。この場にある福の感情を摂取したさに、そう思う。
 その華がいくら美しかろうとも醜かろうとも、己はきっと関係なく喰らうのだろう。
 でも、どうしてか。これ以上喰らいたくないと願う己がいることにも暴食者は気付いていた。喰らいすぎたそれらが、忘れられないからだ。
 苦しくて辛くて、心の片隅で喰らうことをやめたいと願ってしまう。ただ、そうした。



 空に上がる華を見上げることすら怠惰者は億劫だった。そんなことをする労力すら億劫で無意味で仕方なかったからだ。
 華などなくとも世界は回り、動なくとも生は続くのだから。
 どうしてか、それでも。横にある温もりだけは離す気はなく、怠惰者ですら動く理由となりえた。それだけが存在意義だからだ。
 世界の華なんてどうでもいい。自らの望む華だけを認め求める。ただ、そうした。






 宙に打ち上がり続ける満天の華。各々が己のあるべき場所で、ただそれらを観測した。

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