はじめてづくし【sideグリモア】

こちらのお話の後の話です。
 
■自キャラだけの話です。
 
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 ポフィンを貰って上機嫌となったキマリスは外に出てからもそれを手放すことをしない。ふにふにと何度かその触感を手で楽しんでいたかと思えば、次には口元にあてて楽しんでいる。さっさと食べればいいものをとは思うが、本人が楽しんでいることを邪魔する気はグリモアにはない。
 店の外で待たせたままだったオロバスの背中に先程貰った道具や食べ物諸々を詰め込んだ鞄を乗せる。そのままオロバスの背に乗ろうとした矢先にくい、と軽く髪がオロバスに引っ張られた。
 ああ、酷く乱れてしまったからそれを気にしているのかと。テイにぐしゃぐしゃに撫ぜられた頭と髪にグリモアは軽く手で触れて、面倒くさいなと思う。直すのも面倒くさいが、結い直さなければ視界に乱れた髪が飛び込んでくる訳だから邪魔で仕方がない。
 
 写真の男について興味があるなら、本気で知りたいなら、また来るように。と、テイは言っていた。
 大変困っていることがある。別段写真の男、基父親に関してはグリモアは興味はないのだ。グリモアは父の家族を探しているだけであり、父親を探している訳ではない。
 興味がない人間のことを知りたい訳でもなく、知る必要がある訳でもなく。道具や食料を無料でもらえたのは正直言って助かった。テイが言っていたようにグリモアは簡単に余計な敵を作る。
 それはグリモアがあまりにも意思表示が下手で、表情に変化が乏しく、また感情がなく、他者への興味や関心がないせいだ。テイがあそこまで親切にしてくれたのが奇跡だと言える。ということぐらいはグリモアにも理解は出来ている。
 けれども、上辺だけの演技は出来やしないし、喜怒哀楽という感情自体もないものだからどうしたらいいというのか。
 こんな子どもだから、父親は自分を愛せなかったのだろう。
 
 いつの間にかオロバスの背によじ登っていたキマリスがグリモアの髪を結い直していた。その横にはボールから出ていたらしいフォカロルの姿もある。
 
「フォカロル」
 
 グリモアの声に反応して、髪結いを眺めていたフォカロルは視線をグリモアへと移す。
 
「はじめてだ」
 
 父親がグリモアの髪を撫でることはあった。けれども、グリモアの頭を撫でたことは一度としてない。いつだって記憶の中の父親はグリモアの髪型に固執して、”そうあらねばならない”とでもいいたげに髪を整え続けた。
 キマリスが髪を結い終える。いつものように、父親が固執した髪型になれば三つ編みがゆらゆらと揺れる。
 ずっとずっと、視界の片隅で揺れる三つ編みが、邪魔で仕方ない。
 
 フォカロルは何も言わず鞄の中からパンを取り出すと、グリモアへと差し出す。グリモアは一瞬の間をおいてからパンを手にして、口にする。
 柔らかくふわふわとした食感のそれは馴染みがなさすぎて、食べやすいはずだというのにどうしてかうまく嚥下してくれなかった。

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