真昼の帳は、【sideグリモア】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テラーさん、シュテルさん
 
 
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 成程、ゾロアークの特性はイリュージョン。ゾロアに化けていたのであれば技構成の不一致さからの違和感も生まれにくい。珍しい色合いのゾロアーク、シュテルの美しく整えられた毛並みは少し乱れてしまったが、それでも輝きを絶やさないまま。
 テラーが指を鳴らし、それに応じるようにシュテルが瞬きを一つ。それを合図と言わんばかりに幻影の空は瞬き、姿を変える。まるでショーの幕開けとともに、演目を閉じるためにカーテンを下ろすかのように。
 
 グリモアは流星群のように降りてくる夜空を眺めながら思考する。先ほどの技の見た目からしてあれはあくのはどうで間違いないだろう。
 あくタイプの技はエスパータイプを合わせ持つイポスにとっては致命的な弱点だ。だからこそ当たればひとたまりもないことなんてわかっている。ただでさえあちらは先程わるだくみを使用していた。放たれた一撃目は無事にかわせた。しかし、広範囲で降り注ぐ夜の帳をかわすことは不可能だということなど、旅に出たばかりのトレーナーでも理解出来る。
 だからこそ、することはたった一つだ。
 
「イポス!」
  
 降り注ぐ夜に呑み込まれる前にとグリモアは声を張り上げた。イポスの翼の音にも、ぼうふうの余韻にも掻き消されてしまわないようにだ。
 どう行動するのかと楽し気にテラーとシュテルがグリモア達の方を見遣る。その仕草が似ているのは、やはりトレーナーとパートナーだからだろうか。
 イポスは空を見上げたまま、視線だけをグリモアに寄越して___グリモアの瞳を見てしっかりと頷いた。疑わない。主の指示を、主の瞳の色を、主の選択を。
 幼き頃から共に歩み、見守って来たその子の采配をイポス達は疑わない。____それが、グリモアを更に人の輪から離させてしまった理由の一つだと理解はしていても。それでもイポスはグリモアを立てたいのだ。小さな子どもを、大切にする以上に尊敬してしまっているから。
 
 イポスは翼を勢いよくはためかせたかと思うと、空に向かって勢いよく飛び上がった。そう、あくのはどうの空に。
 
「飛んだ?」
 
 直撃を喰らうのはエスパータイプであるイポスにとっては避けたいことだ。それだというのにわざわざあくのはどうに向かっていった姿にテラーが訝し気に言葉を零す。そんなテラーの様子をグリモアは見つめながら、空には視線を向けない。もう、指示は終えたと言わんばかりに。
 飛んで、飛んで、飛び上がって。イポスは流れ星の帳にぶつかろうという直前で、マジカルシャインを発動させた。そしてそれを、”自らの身体”に纏わりつかせた。淡い妖精の光を纏いながら、真っ直ぐに夜空を貫く。技を避けた訳ではない。マジカルシャインの妖精技で鎧を作ったとて、命中しにいったのだからダメージを喰らっているのは当然だ。それでも夜空さえ超えれば、今度はこちらが空をとれる。
 ___最も得意なバトルフィールドを。
 
「空。暗くて、見えづらいね」
「おいおい、まさか」
「イポス。更に、落とせ」
 
 テラーとシュテルをグリモアがイポスの代わりに見据えたまま手を下げると同時、帳の下など見えていないだろうにイポスは未だ降り注いでいる夜空に向かって風を送る。ぼうふうによってあくのはどうを抑えつけて、蓋を閉じるかのように夜空を大地へと無理矢理に落とした。とんでもない力技の狙いは、夜空を生み出した張本人だ。
 
 混乱に塗れた夜空が、闇の渦を巻きながら吸い込まれるように世界を生み出したシュテルへと落ちていく。まるで世界の創造神への反撃のように。

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