塗り替える【sideリピス】

■お借りしました:カルミアちゃん、シャルムくん

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 船体が大きく傾く。ああもう本当にあのよくわからないポケモン達は好き勝手やってくれているみたいね。もう少し加減ぐらいできないのかしら、と思うがああいった未知なる恐怖にそんなことを期待しても無駄だ。
 幸いにもこの場には調査のために精鋭が集められているのだから、きっと事態は収束に向かうことだろう。そう思わなければやっていられない。わたしもわたしでバトルにおいてはまだまだなのだ。だから早く安全地帯となるユメキチを見つけなければいけない。スウィートたちはどうせ問題ないだろう、腹が立つが彼らは強いのだから。

 ____不意に、鳴き声が聞こえた。
 わたしは思わず立ち止る。立ち止ってすぐに耳を澄ませながら視線を巡らせた。先程確かにウツロイドではないポケモンの鳴き声が聞こえたのだ。必死な声。その声を聞けば、そちらへ向かうことなんて即座に決まることだ。
 広い船内を駆けて鳴き声のする方へと走れば、そこにはエーフィと一人の少女の姿があった。覚えている。しゃがみこみ身を縮こまらせているからこそ顔の確認は出来ないがその美しい金糸とエーフィには見覚えがある。彼女は以前ユメキチを待っている時にベンチで出会った少女だ。
 少女の少し傍には倒れているウツロイドの姿がある。彼女達が倒したのだろうか。そうは思いきれなかったのは、少女が酷く震えていたからだ。エーフィは不安そうに、必死に少女に呼びかけを続けている。わたしが聞いたのはあのエーフィの鳴き声だったと確信を得た。

 わたしは少女達の方へと駆け寄り、耳を塞いでいる少女の手を取った。びくりと大きく震えた少女の片手をとったまま、もう片方の手を少女の頬に当てて半ば強引に持ち上げる。青褪めた顔。怯え切った表情。不安に揺れる瞳がこちらを見た。

「立って」
「、え……」
「立つの。ここにいたら、もっと怖い目にあうわ」
「……っ…」
「早く逃げないと駄目よ。もっと強い人達がいるところに。早く」
「で、も……こわくて、」
「怖くない。あなたにはこんなにも素敵で格好いい相棒がいるじゃない」

 何があっても、あなたを守ってくれるわ。
 わたしは不安げにこちらを見守っているエーフィを見てから、再度少女と目を合わせる。不安なのはわかる。わたしだってこの状況に恐怖や不安を抱いてはいる。けれどもそれをここで見せてはいけない。恐怖におびえる少女を前に、更に不安にさせるような素振りなんて見せてはいけない。

「人がいるところまでわたしが手をひくわ。怖いなら目を瞑っていてもいい。でも、歩いて。走って」

 ぎゅ、と少女の手を握って立ち上がって、無理矢理に少女を立たせる。わたしはまだ子供であって、少女一人を背負うだけの力はない。ゼブライカを出してのせることも考えたが、それではいざという時の迎撃に備えられない恐れがある。
 だからこそだ。

「まもってあげる。だから、今はいいからわたしを信じてついてきなさい」

 そうは言うが実際にまもり切るのはわたしの手持ちと、あと少女の相棒であるエーフィだろうが。それでも今、目の前で恐怖に震える少女に言える言葉はこれしかなかった。
 わたしは少女の手を強く握りしめて、走り出した。

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