色褪せない輝きはいつまでも【sideクラード・リピス】

■お借りしました:ベリルさん、プラチナさん、ゴールドさん

前半の回想に関しましては、こちら【https://note.com/zeno/n/n182013bfac0a】の話の続きです。
  
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 _____十三年前の話。
 これはグリトニルジムに、ジム戦を父が挑みにいった時のこと。
  
 
 一度目の挑戦は敗退に終わった。倒れた最後の手持ちに、真っ暗になった世界。そんな世界は、クラードはもう見たくなかった。
 もう負けたくない。もう手持ち達に悔しい想いをさせたくない。トレーナーとして、彼等を勝たせてやりたい。
 相手もこちらも残る手持ちは一体。ここまで頑張ってくれた彼らのためにも、彼らに応えるためにも後にはもう引けない。引きたくもない。
 
「クラードくん」
 
 また最後の一匹に彼女を残してしまった。鋼の痛みを受けてリリーが後ろに下がる。相対するゴールドはこちらを見据えたままだ。そんな中ジムリーダーからの問いかけに、緊張状態はそのままにクラードは彼の方を向いた。
 
「君にとってトレーナーとは何かな」
「私にとって……?」
「友達かい?それとも……一体何だろうか?」
 
 トレーナーとは何か。そう問われてクラードは考える。ポケモンバトルの最中、バトルのこと以外に思考を費やすことは危険だとわかっている。バトルの方に集中するべきだともわかっている。それでもベリルがこちらを油断させて問いかけているなどという訳ではないとわかるからこそ、クラードは真剣に深く思考する。
 熟考して、至った答えをすぐに舌にのせて発した。
 
「すべてです。私にとって、愛する大切な子達」
 
 家族、友達、相棒、色々なものが脳裏を巡った。けれどもどれもこれもが該当するものだから、そう答えるしかなかった。
 共に育ったものは家族のように愛した。共に楽しさを味わったものは友達のように愛した。共に苦難を乗り越えた時は相棒のように愛した。
 一つの関係、単語では表現しきれない。それだけでは説明がしきれない。何よりも愛する愛する者達。それがクラードの思うポケモン達だ。
 
「一言では言い表せられません。……家族であり友達でもあり、相棒でもあります。ですが、私は彼らを愛しています。それだけは、確かです」
 
 クラードの返答にベリルは微笑みを浮かべる。とてもとても穏やかで柔和な笑みを。
 そちらにクラードが意識を奪われていると、リリーが大地に手をついて立ち上がる。あげられた顔、その表情には思わずベリルは幸せそうに、微笑んだ。
 
「リリー……?」
 
 くるりと振り返ったリリーは幸福に満ちた、愛らしい笑顔をクラードに向けた。まるでそれは任せてと言わんばかりの、クラードの愛に応えようとするかのようで。
 リリーが前を向き直り、ゴールドを見据えた。見据えたと同時、光が放たれた。
 
 輝く光。それは進化の奇跡の色____。
 
 
***
 
 
「君にとってトレーナーとは何かな。友達かい?それとも……もっと君のことを教えておくれ」
 
 ベリルの問いかけにリピスは一切の躊躇いなく答えた。
 
「トレーナーは、わたしは。ついてきてくれるこの子達を愛する者」
 
 正直な話、トレーナーとポケモンの関係性なんて多種多様だ。リピスにとってはゼブライカは家族のようではあり、ムムは友達、ササは相棒。ルルは保護対象であり、トトはまだわからない。わからないけれども確かなことが一つ。それはリピスは彼らを愛しているということ。その愛がわかりにくいと言われようとも、気付かれなかろうとも。不器用なりにリピスは彼らのことを何よりも愛し、大切にしている。
 
「一言じゃあ言い表せられないわ。だって、家族であって友達でもあって……他にも沢山の関係があるんだもの。でも、共通しているのはわたしはこの子達を愛していることよ」

 そう答えれば、リピスの返答にベリルは微笑みを浮かべた。とてもとても穏やかで柔和な笑みを。どこか、泣きそうなまでのそれを。
 
「お褒めの言葉、とっても嬉しいわ」
 
 宝石になれるのならばそれはとても嬉しいこと。けれども自分がまだ荒削りの原石である自覚はある。経験が足りない、知識が足りない。強欲だからこそ、もっともっとリピスは美しく成長したくてたまらないのだ。
 
 前を見据え、次なる手を考えているリピスの一方。トトはその身をふるふると震わせていた。それにプラチナが警戒して構えをとったが、その表情に思わず首を傾げた。トトは顔を赤くして顔を両手で覆っていたのだから。
 
「?トト?」
 
 流石のリピスも不思議に思い声をかける。そうすればはっとしたようにトトは首をぶんぶんと横に振って、再び凛々しい顔つきに戻るとプラチナを見据えた。その様子にベリルもプラチナもトトのリピスへの感情に気付いて、ベリルは更に笑ってしまう。
 愛され方まで同じだなんて。本当に、似た者親子だと。
 
「トト、まだいけるわね?」
 
 リピスの問いかけにトトはしっかりと頷く。頷いて、周囲に向かってバブルこうせんを振り撒いた。多量の泡がしろいきりと混じり、弾け。太陽の光を受けた水が虹色に輝く。
 泡としろいきりに覆われたプラチナは周囲を見渡し、警戒態勢を整える。この濃霧だ。いつどこから攻撃をされてもおかしくはない。
 白い霧に光が混じり、一瞬プラチナの目が眩んだ。その瞬間バブルこうせんが射出される。
 
「プラチナ、薙ぎ払うんだ」
 
 冷静にベリルが指示を出せば、プラチナは先のように水の力を纏い泡を薙ぎ払った。放たれた泡の流れを探り叩き落としていけば、弾けた水が光を反射する。その反射された光の後から、トトが勢いよく霧の中から飛び出しプラチナへと突撃した。
 
「水の流れが探れるなら、こっちは泳ぐまでよ」
 
 帽子の鍔をしっかりと握り直し、リピスは前を見据えた。白い霧の中から飛び出したトトの後押しをするように、声を上げる。
 突き出された切っ先。水を纏ったそれを旋回した勢いで跳ね上げる。
 
「ドリルくちばし!」
「てっぺき!」
 
 トレーナー同士、目と目があった。青と紫。澄み切った互いの視線が交差して、互いに同時に指示を出す。
 至近距離で顔面目掛けて放たれた嘴を、プラチナはもう片方の腕を盾のようにして鉄の壁で凌ぐ。ぐぐ、と嘴をトトが押し込むが、それでも力ではやはりプラチナの方が上だ。
 けれども、そこで引くような挑戦者でもない。
 
 ああ、と。その様を眺めてベリルは目を細めた。本当に似た者親子だ。
 
 意地になったのはリピスもトトもどちらもだ。負けたくなんかない。どちらともが同じ感情を持って、前を見据えた。
 
 ______目映い光が、トトを包んだ。それはベリルが夏にも見た、奇跡の色。
  
 光が完全に落ち着くよりも早く、プラチナの身体が後ろへと押し飛ばされた。大地を滑りながらも体勢を整え直す頃には光は収まっていて。
 大地に二本足で立つトトは、鳴き声を上げた。そこにあるのはポッタイシとしての鳴き声ではない。
 エンペルトとしての、鳴き声だ。
 
「……トト、あなたそんなに経験値を溜めてたの……?」
 
 思わずリピスが声を零せば、進化を果たしたトトは誇らしげに微笑みを浮かべて、その場に倒れ伏した。
 もうとっくに限界がきていたのだ。ただ負けたくない、リピスへの想いに応えたいという意地で動き続けたその子は一撃を叩き込んだことで全ての力を使い果たしてしまった。
 慌ててリピスはトトの元まで駆け寄り、目を回したその子を慈しむように撫でた。思わずこぼれ出たのは苦笑で、けれどもそれもすぐにやさしい微笑みに変わる。
 
「……ありがとう、頑張ってくれて」
 
 意識を失ったトトをやさしく抱きしめながら、リピスはベリルとプラチナを見上げた。
 
「わたしたちの負けね。悔しいけれども、この子もあなた達のことも沢山知れた。……楽しかったわ。ありがとう」
 
 負けて悔しい。けれども、どうしてかそこには清々しさもあって。リピスが彼らに向ける言葉も表情も、酷く子供らしい純粋なものだった。

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