情の切れ目【sideシャッル】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:ミランダ(ベラドンナ)さん

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 機嫌が悪かったと、頬に傷をつけて帰ってきたミランダの姿。何か琴線にでも触れるようなことをどうせ犠牲者が口にしたのだろう。
 助けを求めるものはいつだって愚かで愉快だ。自分の身可愛さに保身に走り、言わなくてもいいことまで思わず口にしてしまう。
 そういった愚か者を見ることは嫌いではなくどちらかといえば好みな方ではあるが、ミランダは別にそういった嗜好の持ち主ではないだろう。加えて自分と違い彼女にはそれなりの人間性があったのだということは様相からわかる。というか、自分のような気狂いが稀有なだけだ。
 
「ほら、みせてみ?」
 
 手持ちの技を使えば楽なのにと言いたげな視線を無視し、頬の傷へと手当てを行う。そりゃあそうだろう。こんな見えるところに傷がついていたら、自分すらも疑われてしまう。
 恋人からの暴力行為。当然のように世界に溢れる事象に自分達がいい噂の的として選ばれてしまっては最悪だ。検事という表向きの職業も、本業に気付かれないためにも。些細な因子さえ綺麗に潰していかなければならない。
 もっとも、ミランダが言いたげにしているように俺自身の手を煩わせる必要は特にはない。これはただの仕事相手への配慮と打算だ。
 
 生き物には情というものが存在する。生まれた時から当然のようにして持っているそれを俺だって勿論持っている。だが、俺の持つ情はあまり世間一般的なものではないこともわかっている。
 
 思い出す。情に訴えかけて助けを乞うてきた人間を。
 今まで共に協力した仲間じゃないか。そんな風に喚き散らしてきた相手に対してはただただ冷めた視線しか送れやしなかった。
 情を向けてもらえる程に多少の縁があるとでも思い込んでいたことも、縋れば助けてもらえるだのといった甘えがあるところも。
 たかが他人にどうしてこちらがそんな時間と手間をかけなければならないというのか。あったものは金での関係。たったそれだけであり、金を支払うことが出来なくなり、その上で愚かな情などというものに甘えこちらに協力を求めようとしてきたことなんて理解が出来ない上に腹立たしいことこの上ない。
 どれだけ図太い神経をしているのかわからない愚か者に向かって俺はただ笑って手を振ったのだ。もうその愚者は、法で裁かれるには相応しすぎる状況から逃れられなかったのだから。
 
「シャッル?」
「ああ、何でもあらへんよ?」
 
 治療を終えればもうそこには何の痕も残らない。すっかり綺麗に元通りになった頬に指を滑らせて、手を離す。
 不可解そうに首を傾げるミランダの表情を見て、この仕事仲間に向ける気狂いの情はいつなくなるのだろうかと笑った。

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