容赦なんて知らない【sideグリモア】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:テイさん、ユラちゃん
 
 
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 バトルで得られる高揚感だとか、緊張感だとか。そういったものを、子どもは一度も感じられないままだ。
 
 
  
 オロバスの至近距離に迫り技を放とうとするユラの姿を見ても、グリモアの表情が動きを見せることはない。焦ることも、動揺することも、心配することすらもなく。グリモアはただ淡々と指示を出す。
 
「受けろ」
 
 オロバスはグリモアの指示に従って動かない。グリモアの指示に驚くことも怯えることもせず、至近距離でユラのオーバーヒートをその身に受けた。威力が下がっているとはいえ、オーバーヒートの威力自体が元々高い。当たることは極力避けたくはあるが、素早さでバンバドロがゴウカザルに敵う訳がないのだ。だからこそ、受けた方が次に繋げやすい。
 大輪の華が開花し、散った。赤く、赤く、燃え滾った華が。オロバスだけではなくユラの姿さえも全て覆い隠してしまう程の巨大な華。燃え広がり爆発するように華開いたそれは火の粉となりて周囲に散っていく。
 
「うちおとせ」
 
 その美しさすらも、グリモアには何とも思えない。ただただ淡々とバトルに勝つための指示を出す。
 至近距離での威力は確かに相当なものだった。けれどもそれに堪えるためにてっぺきを重ね、技を受けた。全ては防御をあげるためであり、防御は最大の攻撃ともなる。だからこそ、甘んじてそれを受けた。
 オロバスはユラの腕に勢いよく噛みつくと、大地へと叩き落す。重い一撃として大地に叩き付けられれば、投げられた側はひとたまりもない。だからこそ一瞬の隙が生まれる。素早さでは敵わないからこそ、こうやって隙を作るしかないのだ。
 
「!ユラ、ステルスロックだ!」
 
 何を狙っているのか理解したテイが指示を出すが、痛みによって動きが鈍くなった身では普段の素早さで技を出すことが出来ない。岩の礫がユラの指先から放たれ、オロバスの頬を掠める。それすらも気にならないとばかりにオロバスは両足をユラ目がけて振り下ろした。
 
 
***
 
 
 値下げどころか無料で道具を手に入れ、グリモアはテイを見上げた。バトルに負けた後悔しそうな反応を見せたものの、今の彼は快活な笑みを浮かべ道具を渡してくれる。
 けれども、写真の男について、つまりはグリモアの父については口にはしない。それならこれ以上この場に長居する必要はないと、バトル出来ずに拗ねていたキマリスの手を引いてグリモアはテイに背を向けた。

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