無鉄砲【sideリピス】

■お借りしました:スウィートくん、フェリシアちゃん


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 酷く月明りが綺麗な夜だった。

 どこかのポケモンがムーンフォースでも放ったのだろうか。そんな風に錯覚してしまう程に、その日の空は、夜は。淡いあたたかな色に包まれていた。

 少し出かけてくる、といってユメキチが宿を出て行ってもう一時間が経過していた。少しの言葉の意味を間違えたのかしら。こんなにも遅いとなると流石に心配になってしまうわ。
 ユメキチはわたしよりも大きな大人であり、わたしを守ってくれる護衛であるということは勿論理解している。けれども、それでもともに旅をしている以上心配になるのは当然のことだ。
 少し眠くなりはじめたが、それでもやっぱりおやすみはいいたいの。わたしは渋るムムを連れて外に出た。


 た、た。カツン、コツン。ブーツが軽快な音を立てる。静まり返った夜更けにはそれが酷く響いて、酷く澄んだ音色に聞こえる。それを人は寂しいともいうのだろう。

「……?」

 思わず足を止めた。ムムも気付いたようだ。どこからか悲しい声が聞こえる。鳴き声?違う。泣き声だ。誰かが泣いている。こんな夜にどうして?わたしの脚は無意識のうちにそちらへと向いていて。ムムがそれを止めていたのを、わたしは気付かないフりをした。


***


 酷く月明りが綺麗な夜だった。

 けれどもそれを美しいとは今のわたしは言い切れなくなっていた。だって、そこに見える哀しみの色は何一つとして美しくないのだから。
 揺れるリボンはうつくしい。けれどもそれだってどうしてかうつくしいと思えなかった。身体と脳と心が瞬時にくみ取ったのは、”拒絶”だ。違う。それは。その戦い方は、在り方は。よくない。
 幼いながらにも幸せに育ててもらった環境が、わたしの脳に警鐘を鳴らす。

 トドメだ、とばかりにその月の光は強さを増した。泣きながら傷だらけの自分のポケモンを抱きしめていたトレーナーが涙に濡れた頬でそちらを茫然と見遣る。その奥には。月の下には宝石のような異なる二つの瞳。美しいのに、どこか哀しい。そんな宝石だと思った。

「あれ?」

 反射だった。第三者の介入に宝石の双眼が疑問の声をあげるが、こちらは平素ではいられない。

「何だ?お前。そいつはオレとのポケモンバトル中だぜ?」

 確かにそうかもしれない。トレーナーが二人、戦わせているポケモンが互いに一匹ずつのこの状況は確かにそう言うのかもしれない。
 けれども、こんなにも、片方が酷く傷付いたものをポケモンバトルだなんてわたしは知らない、認めない。

「ポケモンバトル、わたしが代わるわ。わたしとバトルしなさい」

 脳が警鐘を鳴らす。しかしそれでもそう宣言せざるは得なかった。
 ムムがまもるを発動させている間に、とトレーナーに逃げてと囁く。トレーナーはびくりと肩を跳ねさせて、パートナーを抱き抱えて走っていく。

「ふーん?」

 宝石がつまらなさそうに、それでいてまあいいかといった風な表情を浮かべる。彼の相棒であるニンフィアが愛らしくも残酷なリボンを揺らめかせてこちらを向いた。

 まずいわね。これは、わたしは負けるわ。

 違いのない確信を抱いたが、引く訳にはいかなかった。ごめんねムム、と目を向ければその子は構わないとばかりにフィールドに立った。

「やりすぎだと思うの 」
「ただ遊んでただけだろ?」
「あれが、遊び?」

 信じられないと思った声がそのまま出てしまった。瞬間再び彼等の頭上に月が浮かぶ。丸く美しい、金の月の下に生える桃の月。それが赤く見えるなんて、酷い錯覚だ。
 わたしが何か言うよりも早くにムムが動く。光すらも焼け焦がさんとばかりに火炎が円を描き月光を遮る。眼前で弾け散った火の粉と妖精の光。
 綺麗だ、と。はしゃげたら良かったのだが。今のわたしは純粋に怒っていたのでそんな感想を抱く余裕はない。

「ひととポケモンを傷つけるようなものはポケモンバトルじゃあないわ」

 はっきりと断言して、格上の相手に無謀にもバトルを挑む。逃げるなんて選択肢はない。何よりもう腹が立ったのだ。せめて一発純粋に殴りたい。そう考えていたのはムムも同じようで、普段はストッパーである彼女もやる気満々で構えをとった。



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■ムム(ミブリム♀)
※CSにオスと明記していましたが、♀の間違いです……。(また訂正表明します)

【特性】
マジックコート 

【持ち物】
しんかのきせき

【技】
・まもる
・ねんりき
・ドレインキッス
・マジカルフレイム

リピス自体が新米トレーナーのためレベルはそこまで高くなく強くはありませんが、弱さをカバーするような考えた戦いをしてきます。
リピスもムムも勝てると思っていませんが引く気はありません。

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