グラスの反射色【sideシャッル】

■お借りしました:バロックさん
 
 
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 ああ、似ているな、と。はじめて対面した時からそんな風に思ったことだけは覚えている。
 
 
 相変わらず顔のいいことだ、とグラスを磨く男の横顔を眺めていれば目だけがこちらを見遣る。それににこりと笑みを返せば同じように相手の口角が上がり、何を言うでもなく磨かれたグラスにカクテルが継がれて自分の手元まで滑らされる。気障ったらしいことこの上ないが、バーテンダーである彼にしてみれば当然の行いなのだろう。
 彼の横でその仕草の鮮やかさや諸々に歓喜し笑顔を浮かべる色違いのサーナイトのように、店内には他にも似たような反応を見せている女性が多い。当然の行いだろうが、わかってやっていることも明らかだ。
 
「罪な男ねえ」
「貴方様には負けますよ」
「謙遜しないでちょうだいよ~」
 
 グラスを指先で受け止めれば、透き通った硝子が中の液体を受け止め、照明の光を反射させる。グラスを持ち上げて軽く揺らしながら、マスコット枠のトゲピーへと飴玉を渡す。確か道端で困っていた少女を助けた時にもらったものだった気がするが、持っていても邪魔なだけだ。家に戻ればキャティがいるのでそちらに渡してもいいのだが、ポケットの中に何かが入ったままというのは中々に不愉快なものだからここで処理してしまう方が楽だろう。
 自分の愛らしさを十二分に理解したトゲピーが愛らしく飴玉を受け取る様に、自然と笑みが零れる。純粋に、そう、酷く純粋に、面白いと。相手も同じように思っているのだろうが。
 
「可愛い~」
「あまり甘やかしすぎないでくださいね」
「ええ、それは無理よ。だって可愛いものは愛でたいじゃない」
 
 ねえ、とカウンター席の横に座らせていたキラーダへと視線を向ければ、当然とばかりに目を細める。最もキラーダの場合は自分が一番可愛いのだから自分を早く愛でろ、の意味の相槌だろうが。それでもわからない人間から見ればキラーダもただただトレーナーと親しい可愛いだけのポケモンに映る。
 
「ねえバロックちゃん。何か楽しい話はないの?」
「中々に無茶なことを仰いますね」
「でも応えてくれるのがバーテンダーの貴方でしょう?」
 
 それは勿論ですとも、と柔和に微笑んだ男は別の客のカクテルを作りながらゆったりと言葉を紡ぐ。その右手の手袋の下に隠された指先に青い首輪が嵌るきっかけとなった時のことを思い出せば、本当に似た者同士だとしか思う他ない。
 面白いからと美しいから。たったそれだけのシンプルな理由だからこそ、相手のことを何とも思うことなくこうして利害一致の協力関係を取れる。
 楽な相手だ、と互いに仮面をつけたまま今日も他愛のない話を行うのだった。

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