ふわふわ【sideリピス】

■お借りしました:ライさん、メレンゲちゃん


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 ころころ。ころころ。

 楽しそうにかどうかはわからないが転がっていくその子をわたしは慌てて追いかける。追いかけっこにDは向かないため、急遽ボールの中へと戻し一人追いかけ続けていた。
 何を追いかけているか、というとそれは白い存在だ。わたしの手持ちのガラルサニーゴのササは、わたしのボールから勝手に飛び出たかと思うと壁にぶつかり、そのまま転がり始めてしまったのだ。好んで転がっているのか、それとも衝撃と勢いに身を任せ転がっているのかはさっぱりわからないが、わかるのははぐれられたら困るということだ。
 ここには沢山のトレーナーもポケモンもいるのだから、迷惑をかけてはいけない。そんなこんなで転がり続けるササを追いかけ続けていたが、不意にササが転がるのを止めた。その止まり方はこつんと何かにぶつかって止まった訳でも、誰かに止めてもらった訳でも、速度が緩くなっていき自然と止まったという訳でもない。ということはつまり、意図的に転がっていたということね。

「ササ」

 ササは転がるのを止めたかと思うと何かを見上げている。何を見上げているのかとつられて私も視線を上にあげれば、そこにはササと全く同じ存在と、穏やかな顔立ちの男性と、ソフトクリーム。
 ガラルサニーゴを抱き上げている男性の手には白いソフトクリームが握られている。ソフトクリームだ。ぱあ、と自然と瞳に光が灯ってしまう。この暑い時期にソフトクリームは惹かれてしまうものに違いないに決まっている。

「こんにちは」
「おや、こんにちは」

 わたしは男性の足元でじっと男性のガラルサニーゴを見上げていたササを抱き上げて、その子の様子を確認する。ササの視線はガラルサニーゴに向かっているが、わたしの意識は正直男性の手元のソフトクリームとその背後にも見える机の上に乗ったハーブティーに向かってしまって仕方がない。だって美味しそうなんだもの。

「よければいかがですか?貴方と、その子の分も」
「!いいの?」

 わたしの視線の意図は簡単に察されてしまったのだろう。抱き上げていたガラルサニーゴを一度降ろした男性から差し出された二つの白いソフトクリーム。板チョコが刺さったそれにはトッピングが軽くあしらわれていて、爽やかな見目が涼しさを与え食欲をそそる。
 ええ、というやさしい声色にありがとうと御礼を告げて、受け取ったソフトクリームをまずササに食べさせてやる。じっと男性のガラルサニーゴを眺めていたササは緩慢な動作でこちらを見たかと思うとソフトクリームを口にし、一拍遅れて口を軽くぱくぱくと動かす。無表情故に何を伝えたいのか非常に判断が難しいが、きっと”これは美味しい。もっと”と強請っているのだろう。そう捉えて再びササの口にソフトクリームを運んでやれば満足そうな声が零された。
 待ってつまりそんなに美味しいってことね?男性に一度会釈してからわたしもソフトクリームを口にする。冷たくてふわりとした、それでいて儚く溶けてしまうそれは酷く舌に馴染んだ。淡く柔らかく甘く、かつ舌に乗ったトッピングが残る感覚が更にその後味のよさを押してくるものだから溜まらない。

「とっても美味しいわ」

 あまりの美味しさに自然と笑みが零れてしまう。男性は柔和な微笑みを浮かべたままありがとうございます、と告げてくれるものだから余計に嬉しくなってしまった。
 男性が抱き直したガラルサニーゴの方をじっと見ているササにまたソフトクリームを食べさせる。そんな最中わたしは思わずお土産にいくつかもらえないかしら、なんてことを考えた。

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