演目を選ぶ時【sideシャッル】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:フォンミイさん
 
 
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「アンタが手を加えた劇はとびっきり甘そうだ」
 
 愉快に笑い飛ばしてから、フォンミイは楽しそうに私に甘い提案を囁く。賞賛の言葉とともに情報料を下げるという提案。それの対価として求められたものは、自分にとってさして何も問題のないもの。
 いや、むしろ。情報屋が自分の手中の範囲の中にいるというのは酷くやりやすい。情報の入手源をフォンミイだけに絞る気はないが、彼の取り扱う情報の質のよさから手を離すこともしたくはない。
 だからフォンミイからの提案はこちらにとっても酷く甘い提案で、喜ばしいもの以外の何物でもなかった。
 
「お褒め頂き光栄です。ええ、それは勿論」
 
 こんなにも有益な取引を逃すのは、ただの愚か者だ。
 
「一番の席を用意しましょう」
 
 特等席の中でも更に一番いい場所を。観劇は席が近くなればなるほど臨場感と感動を得られるものだが、それと共にこちらを役者に見られる危険も伴うというもの。それでも、彼はそれすらも愉しむだろうと判断して私は微笑んだ。
 飲み干したティーカップに入っていたものの味は興味がないため覚えていないが、美味しかったものだとは思える。
 
「これからもよろしくお願いしますね、フォンミイさん」
 
 爽やかに微笑んで、机上に座った彼を見上げる。この現場を傍から見た人間達は私達が楽しそうに話していることしかわからない。
 
「さて、他にもお勧めの演目があるのですが……」
 
 空になったティーカップをソーサーと共に丁寧に横にずらして、私は微笑む。
 今回遊んだのは姉の方だった。けれどもこの姉と弟のことを調べていてもう一つ面白そうなことがあることに気付いてしまったのだ。
 
「貴方のお知り合いの夕陽髪の情報屋さん。あの方の素性を少し調べたところ、こちらもまた面白いマリオネットだったようで」
「ん?……ああ」
 
 それだけで誰のことを指しているのか理解したのだろう。思考の後に楽し気に歪められた弧の形は嫌いではない。そういう彼だからこそ、仕事上付き合っていくには十分すぎる相手なのだから。
 
「調べてもらえますか?」
 
 私が彼女のことで得た情報の多くは芸能関係のものだった。けれども彼ならば更にもっと深いところまで手が届くだろう。今回調べさせたあの姉弟のように。あの姉弟とも関連性があるかもしれないということに。
 
 彼らもまた実に面白い家族だ。呪われている我が家と同じぐらいに。だからこそ、壊し甲斐がある。
 壊れた時の音はどんなものだろうか。それを考えるだけで、穏やかな気持ちになった。

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