似た者嫉妬と憤怒は憎悪を孕む【sideドティス・ミィレン】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テイさんと某バーテンダー
 
 
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 変わっていないと思った。十年以上の年月が経ったというのに、目の前にいる幼馴染は変わらないまま。
 
 純粋に浮かんだものは、怒りだった。そんな目にあう謂れのないお前がどうしてと。けれども世の中にはそういう”悪意”を当然のように持っている存在がいることを知ってしまっているからこそ、____やるせない。仕方ない。被害者は結局のところ通り魔にあったと、自分を納得させるしかないのだ。
 
 随分と大きくなった身体がこちらを包み込む。その指先が震えていることに、どうせこいつは気付いていない。他人のことには敏感なくせに、こいつはいつだって自分のことは蔑ろにするからこそ、鈍感なのだ。
 
 自分のせいで誰かを嫌いになって欲しくないとテイは口にした。お前は、それを俺が同じ目にあって俺に言われたとしても頷けるのだろうか。
 その問いかけは俺はしない。無意味に口論を続けても、この馬鹿の傷を抉るだけに他ならない。俺は精神面は専門外に近いというのに。ここまでわかりやすければ、わかってしまう。
 
 情けない笑顔を浮かべる男の頬を抓って、すぐに離す。僅かに赤くなったそこを労わるように指先で撫でて、心すらも撫でれたらいいのになんて柄にもないことを思った。
 
 言及するも非難するのも、テイではない。となれば答えはただ一つだ。
 俺のせいで、とテイは口にした。何がという話だ。俺は俺の意志でそのクソッタレを殴り飛ばしたいという感情に包まれただけだ。生憎とだがこちらはテイのような善人ではない。不快な存在を知れば目障りだと思うし距離をとる。それが限度を越えたものであれば、社会からの排除を願う。
 お前は、俺をなんだと思っているのだろうか。やさしい人間なんかじゃあ、ないのだ。
 
 けれども今ばかりは目の前の存在を何とかしてやらないとと、背中に手を回してやさしく撫でる。小さい頃父が消えた日に、こいつにされたように。
 
 
***
 
 
 ああ、これは納得だ、と。調査対象の人間を見つけて内心で毒を吐く。バーカウンターの中で丁寧な接客を行う整った容姿の男。甘い言葉に蕩ける女性客を眺めていれば、愚かな過去の自分の姿がかぶる。
 その男に裏の顔があるといっても、彼女達は信じやしないだろう。けれども収集し集めた情報に、目の前の男の匂いから、納得しか出来やしない。
 本能的な嫌悪というのだろうか。最低なことに鍛えられたそれで、吐きそうになった。
 
 とある男の情報が欲しい、と酷く断片的な情報しか持ってこなかった旅医者の依頼は当初断るつもりだった。他の情報屋からも断られ続けたという旅医者の言葉にはそりゃそうだろうとしか思えなかった。無理がありすぎる程に、調査対象の情報がなかったのだ。
 けれどもあまりにもその旅医者の瞳が冷めているのに、憎悪で煮えたぎっているのに気付けば____私に頷かない選択肢はなかった。
 情報を集めるのには時間を費やした。男を特定するのには更に時間がかかった。それもそのはずだ。相手も同業者だったのだから。
 
「お客様?」
「ああ、ごめんなさい。まだ悩んでいて」
「では、私から貴女に一杯選ばせて頂いても宜しいでしょうか?」
 
 美しく柔和な微笑みで、こちらに男は問うてくる。
 残像が過ぎる。砂糖漬けの蜂蜜のような甘ったるい言葉と顔で、その裏にどす黒い最低最悪な愉悦の笑みを浮かべている姿を。
 同じだ。澄んだように見えて、ただの虚ろな瞳の色も。他者を何とも思わない純粋な悪意の色を孕んでいる狂気さも。
 ああ、これは。あの旅医者の依頼がなくても私も手を出したかったかもしれない。だってこんなにも、殴り飛ばしたくて仕方がない。
 
「ええ、お任せするわ」
 
 どうせ、この男は探られていることすらも分かったうえでこちらの様子を楽しんでいるのだ。それならば同じように笑ってやろうじゃないか。
 笑うことは得意だ。女優時代の積み重ねは無意味では無い。上辺だけの笑顔を浮かべれば熱に浮かされてくれるどうでもいい人間と同じ程度であれば楽だったのに、目の前の獲物はそうはいかない。
 
 長期戦になりそうね、とぼんやりと思考の片隅で考えながら手際よく作られるカクテルを眺めていた。
 
 
 
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時期的にドティスは最低でも1年は探してたんだなってことになってしまった。蛇は執念深いですからね。

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