セオリー【sideベリト・グリモア】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:メイジーちゃん、ココくん、ララくん
 
 
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 本当にキマリスはいつまでたっても子どもだ。自由気ままで自分勝手。それにいつも振り回されているグリモアやあたし達のことを少しは考えてほしいものだ。
 買ってもらったお面の位置を直しながら、あたしははっとしてメイジーの手をとった。あわてんぼうさんかと思っていたけれども、実はぼんやりさんでもあるのかしら。グリモアとの手の大きさはどっちが大きいかしら。そんなことを考えながらメイジーの手をとって引っ張ってやるの。
 
「ありがとう」
 
 謝罪の後に告げられた感謝に、あたしは胸を張って答える。いいのよ、あたしはしっかりものだから。
 
 少ししてグリモアが立ち止まった。一切こちらを振り返らず歩き続けるグリモアはいつものことだ。誰かのことを思いやる気持ちをグリモアは知らない、理解出来ていないのだとオロバスとイポスが言っていた。どうしてそんな変な子なのと率直に尋ねたら二人は困ったように笑った。自分達のせいでもあるからと。
 
 
 あたしはグリモアの手持ちの中では一番の新参者だ。だからグリモアのことは他の皆に比べたら全然知らないし、正直な話よくわからない。何を考えているかわからないし、全然喋らないし。でも、強くなるためにしっかりアドバイスをしてくれるのも、毛並みを整えてもらえるのも、撫でてもらえるのも、抱っこしてもらえるのも大好きだ。だから悪い人間ではないのだと思う。ただ、心が欠如している。ただ、それだけの。
 グリモアの心が欠如している理由に関しては耐えきれなくてフォカロルに聞いてみた。フォカロルはそんなことないと首を横に振ったけれども、続けてこうも言ったのだ。
 
”心が欠如していない存在なんていない。だからこそ心が生まれていくのだと”
 
 フォカロルの言うことはいつだって難しい。あたしはそっかとだけその場は返しておいた。
 
 
 立ち止まったグリモアの視線の先には、キマリスとココの後ろ姿があった。大きな大きなマルヤクデと、小さな小さなパッチールに挟まれた橙髪の綺麗な人。その人に二人は頭を撫でられていたのだ。
 何あれずるい。あたしもいてもたってもいられず駆け出した。
 
 
***
 
 
 キマリス達の姿を見つけたと思ったら、今度はメイジーの手を握りしめていたはずのベリトまでそちらの方に向かって駆け出してしまった。その様をぼんやりとグリモアは眺めた。自分の手持ちではなく、ああいった表情豊かでやさしそうな人がトレーナーの方がいいのだろうか、なんてことを考えながら。
 
「グリモアくん、あの子達あそこに……」
「……そうだね」
「え、っと……行かないの?」
 
 ステージの近くにしゃがむ女性は、合流したベリトも抱きしめてやさしく愛でている。その様を眺めながらグリモアは足を動かさない。
 気付けば次のステージが始まっていたようだ。美しい演出が人とポケモンによってなされて、会場を歓声が彩っていく。
 
 綺麗だ、と思えたらどれだけよかったのだろうか。
 
 ふと、グリモアとメイジーに影が降りた。それは三匹が集っていた橙髪の女性がこちらまで近付いてきていたからだ。
 
「この子達、君達の子だよね?」
「あっ、は、はい、ごめんなさい、御迷惑を」
「んーん、迷惑なんかじゃないよ!」
 
 明るく笑いながら女性は肩に乗せていたココの顎下を擽ってから、そっとメイジーの元へ向かうように促す。嬉しそうに喉を鳴らしたココがメイジーの元まで戻れば、安心したように抱き留めてメイジーも微笑みを零した。
 一方、ベリトはすぐにグリモアの足元に戻って来たものの、キマリスは女性にひっついたままだ。そしてきらきらした目で女性を見上げている。先まで女性がしていたパフォーマンスをもっと見たい、とでも言わんばかりに。
 その様子を見て、グリモアは何を勘違いしたのだろうか。浴衣の中からボールを取り出して、キマリスの方へ投げる。それはキマリスのボールだ。しかし、キマリスを戻すために投げたようにも思えない。
 
「………好きにしなよ」
 
 そして零された言葉はそれだけだ。この言葉の真意にちゃんと気付けたのはララと女性ぐらいだろうに。グリモアはつまり、自分の手持ちであることをやめて女性についていけばいいと言っているのだ。キマリスは勿論理解出来ていない。
 そして首を傾げていたメイジーも一拍遅れてララに示されて気付く。気付いてから、困惑したようにグリモアと女性を見遣った。
 
「い、いいの?」
 
 メイジーの問いかけにグリモアは視線を返した。純粋な疑問の視線を。どうしてメイジーが自分にそう問いかけているのかすらわからない、といった様子だ。
 その様子を見てか、女性は手を伸ばしてグリモアの両頬を軽く挟む。勿論それにすらもグリモアの表情は変わらないし、反応の声すら零さない。
 
「ね、ね。君達ポケモントレーナー?」
「………」
「い、一応……」
 
 グリモアは無言で頷き、女性から視線を向けられてメイジーも頷く。
 
「それなら、今目と目があったね?」
 
 ふふ、と楽しそうに女性は笑う。その言葉の意味を即座に理解したのはグリモアだ。旅に出たばかりのメイジーにはまだぴんとこない台詞なのは、彼女がまだバトルをそうこなしていないからでもあるのかもしれない。
 
「ミー達とポケモンバトルしよ。二人でかかっておいで?」
 
 ミーと名乗った女性は、楽しそうに笑った。

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