疾風迅雷【sideリピス】


■お借りしました:カンザシさん、キャベツちゃん、レモンくん、ガブくん

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 強い。リピスがジムリーダーカンザシに抱いた率直な感想は、違いなくそれだった。先程バトルをしたスイカも勿論強かった。しかし、ジムトレーナーとジムリーダーでこうまでも違うものか。
 今まで野良でのバトルしかしてきていなかったからこそ、まっとうに指示を出す優れたトレーナーとの戦略戦がいかに手ごわいかを痛感する。
 それでも、それでもだ。

 目の前で心底楽しそうに、はじめて見た時のダウナーな印象とは異なり歯を見せて笑うその姿の。ジムリーダーも自分と同じ一人のトレーナーであるということに。自分もジムリーダーと同様に心が沸き上がっているとういことに。
 どうしようもなく、高揚した。

「ええで、かかっといで」
「御言葉に甘えて」

 リピスは一瞬視線を動かし、空を見遣った。バトルフィールドには初手でキャベツが天に願った雨が降り注ぎ続けている。スイカが言っていたジムリーダーはあまごいの使い手だということと、授けられたレインコートの意味を理解する。
 何の意味もなく雨を降らせる訳がない。雨が降れば水タイプの技の威力は強くなる。くわえ、勿論水タイプであることから特性も有利に働くものを所持しているに違いない。ガブの特性はまさかと思い先手を打ったが、……それだけではないはずだ。

「ササはパワージェム、ムムはアシストして。ゼブライカは待機」

 リピスの指示に従いムムは構えを取り、ゼブライカはその場で体勢を整えながら蹄を鳴らし続ける。
 宙を泳ぐキャベツ目がけてリピスはササに指示を出す。ササの枝の先に光が集中したかと思うと、それは宝石へと形を固め撃ち落すかのようにキャベツを狙う。大地から放たれた光の礫が空へ放たれるも、即座にカンザシの指示によるエアカッターがいくつかを相殺していく。
 技と技のぶつかり合いによって衝撃波が生まれ、煙が巻き起こる。トリプルバトルの厄介なところは、相手は一体ではないということ。
 上空での攻防が行われる最中ガブは特性を生かし、ササへと詰め寄る。それに対しての対策としてリピスが配置していたムムはまもるを張ったが、その素早さに追いつけない。アクアジェットによって水流をまとったガブは勢いよくムムに突撃した。

「!」

 宙へムムの姿が浮いて、それでも体勢を整えるように指示を出そうとリピスはそちらを向いて慌てることとなる。水流によって見えなかった姿。ガブの上に乗っていたレモンの二つの触手が揺れて、光が電撃を纏う。
 追撃するようにムムに電撃が叩き込まれそうになり、リピスが声を上げた。

「ムム!!」

 慌てて手を伸ばそうとしたが、その手が届くことは勿論ない。距離が空いている今トレーナーがポケモンを庇える訳がない。それでも反射で伸ばした手と、一歩踏み出した脚は抑えられることが出来ない。ムムは、リピスのはじめてのポケモンなのだから。

「へえ、やるやん」
「……あ」

 リピスの焦りは杞憂に終わる。電撃が叩き込まれることはなかったのだ。焦りのあまりリピス自身すらゼブライカに指示を出したことを一瞬忘れていた。体勢を立て直しつつニトロチャージを行わせ続けていたゼブライカは雨が生み出した水溜まりを蒸発させつつ、電撃が叩き込まれる前にレモンの横に駆けたのだ。
 ゼブライカの特性はひらいしん。電気タイプの技を受けてダメージを無効化し、自分のとくこうのランクを上げるもの。距離がある場においてレモンの電気技を特性で吸い込めるか不安だったからこそ、リピスはゼブライカがいつでもレモンの傍に接近できるようにと素早さを上げていたのだ。
 間一髪のところでレモンのスパークをその身に受け止め、宙に浮いていたムムを背に乗せて、ついでに衝撃波でころころとフィールドを転がっていたササを角で持ち上げて宙に放る。

「!ササ、シャドーボール!」

 そのまま宙に放たれたササの目の前に、キャベツの姿があったのだ。そうとなれば行うべきことはただ一つ。至近距離からのシャドーボールを放てば、それはようやっとキャベツへと命中する。しかし、完全にではない。向こうの動きも早い。掠った程度に終わる。
 ササがそのまま落下すれば、ムムがサイコキネシスでその身を受け止め、ゼブライカの背に共に乗る。
 ガブもレモンを乗せたまま一度後退し、ダメージを受けたキャベツも二匹の頭上へと戻った。

「……やっぱり。あめうけざら」
「見抜いとったね」
「ジムトレーナーが教えてくれたの。ジムリーダーはあまごいの使い手だって」

 リピスはスイカから貰い、身に着けているレインコートを被り直す。キャモメモチーフのそれは中々に愛らしいデザインだが、おそらくダイゴロウあたりは絶対に身に着けないのだろう。

「言葉も行動も。意味のないことは、ジムチャンレジにおいてはない。そうでしょう」
「御名答」

 雨が降り続ける。命を育て潤す恵みの雨が。キャベツの身体についた傷は、その雫を受けて光とともに癒えていく。

「長期戦は不利だってのは、よくわかったわ」
「なら、どないする?チャレンジャー」
「決まってるわ」

 ニトロチャージで加速され続けていたゼブライカが身を低くし、彼らを見据える。その視線を受けてガブもレモンも迎撃態勢を構え、キャベツは対応をしやすくするために更に飛翔する。背に乗ったムムはササにぴったりと引っ付き、まもるを発動させた。
 ムムがまもるを発動させたと同時ゼブライカは勢いよく大地を蹴った。雨によって滑るのならば、焼けた蹄で蒸発させてしまえばいいだけのこと。全速力で駆けて、駆けて、駆けて。ゼブライカは跳躍し――電撃を放つ。

 この場の何もかもを呑み込む雷光が、ゼブライカを中心に放たれた。


***


【補足】
ほうでんを放ちましたが、勝負の行方としてはこちら側では明確にしておりません。
勝敗結果はジムリーダーにお任せしたいなと思います……!
 

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