世界の真理【sideシャッル】

■自キャラだけの過去話です。
 
 
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 明確な違和感。他の子供とは違う、とわかったからこそ声を掛けた。
 しかしあの時声を掛けなければ、少年は善人としての道を歩んでいたのだろうか。
 
 
 

 汗水流して毎日家族のために働いていた少年は、その日とある光景を目撃した。
 保護活動を行われているはずのポケモン達が網に入った姿。それを引き渡し金のやり取りをする大人の姿。
 知らない世界だった。見たこともない薄暗い裏の世界。至極真っ当に生きていた少年がはじめて見たその世界は____酷く理にかなっていた。
 
「おい、何見てんだ」
 
 大人の一人が少年を脅すように肩を掴み、壁に力任せに押し付けた。しかしそんな暴力を受けても、世界の真理を理解した少年が動揺することはない。そんなことよりももっと今はすべきことがある。
 
「ねえ」
 
 少年は自分の肩を掴む大人の腕を握り締めて、嗤った。
 
「僕にもその仕事、させて」
 
 とても楽しそうな玩具を見つけたように網に入ったポケモンを見つめる瞳も、弾む謳うような声音も、高揚に満ちた表情も。何もかもが少年がみせるには不釣り合いすぎるものだ。それに大人が本能的な恐怖を抱き手をひいて後退る。
 
「何でもするよ」
 
 だから、と少年は一歩前に進んでまた言葉を紡ぐ。酩酊したかのように爛々と輝く橙の瞳は、狂気にほかならない。それでも少年は世界の真理を見た。己のあるべき道と世界を識ったのだ。だからこそ世界に踏み入ることを諦める訳にはいかない。
 何をしても。
 
「いいだろう」
 
 少年が懐から取り出そうとしていたものを察した一人の大人が声を上げた。少年を恐れて後ろに下がった大男と入れ替わるようにして前に出た、虚ろな瞳の女。背後には耳障りな羽音を響かせるスピアーが控えている。
 
「お前の名前は」
「シャッル」
「へえ、あのスィラーフ家のガキか」
「うん」
「俺について仕事を覚えろ。助けはしないからしっかり生き残るんだな」
「わかった」
 
 淡々と告げられる内容に怯むことも悩むこともなく、少年は愉しげに頷く。その様こそが全ての答えであり、この子どもは後に厄介な存在に成長すると女は理解していた。
 していた上で、面白いと手を伸ばした。
 
 
 
 
 
 
 本当に大物になったものだ、と女は送られてきた手紙の内容に感心した。取引における双方のメリットにデメリットを帳消しにする内容が簡潔丁寧にまとめられたそれは交渉の文章としては一流ものだ。
 これを自分の仕事の育ての親のような自分にしてくるのだから、よく自分の立場を弁えている。そういう所が今の立場を確立させれた理由なのだろう。
 女は手紙をソウブレイズの炎で燃やし尽くすと、手紙の返事を書くためにスピアーから毒針を受け取った。

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