こわくない【sideリピス】
▼こちらの流れをお借りしています。
■お借りしました:スウィートくん
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力ではスウィートに叶う訳が無い。軽くでも腕を引かれればわたしに抵抗する術なんてないし、____する気もなかった。
体のバランスが崩れかけて自然とスウィートに寄りかかる形になれば、支えるように背中に手が回される。
抱き寄せられた、というのはわたしの思い上がりではないのだろう。きっと。
「あんたのこと、もう離してやれないけど」
頭上から声が降り注ぐと同時、こちらの腕を握り締める彼の手に力が込められた。けれども痛いとは一切感じなくて、それは彼が手加減をしているからとすぐわかって。
どうしようもなく愚かな程に喜んだわたしが、いたのだ。
わたし。わたしね、同世代の子どもにしては賢い方なの。けれどもここまでされたら、わたしだってもう理解してしまうし耐えられない。
だってあなたがわたしと同じように、執着してくれていると理解してしまったのだから。
わかっている。彼がまだわたしに逃げ道を残していることも、彼の手を振り払うべきだということも。それが不器用な彼のやさしさであって、彼が不特定多数の人間にやさしさを安売りしない人間であることもわかってしまっているから、性質が悪い。
まるで最後の確認だとでもいわんばかりにこちらを見つめるスウィートの目をわたしはしっかりと見返す。そして彼の腕を空いている手で握り締めて、わたしはめいっぱいのつま先立ちで背伸びをした。
はじめて彼と出会った時よりもう一年が経っている。成長期に丁度入っていたわたしの背は、あの時よりかは伸びた方だと思っている。けれどもまだ足りない。彼の横に並ぶには背は足りないし、わたしはまだまだあまりにも子どもで歯痒くて。
「離さないで」
彼の首に腕を回すのだって、こんなにも背伸びしなくてはいけない。緩く掴まれていた腕を解くことは容易で、わたしは両腕をスウィートの首の後ろに回して顔を寄せる。
ここまで顔を近付けたのは流石にはじめてな気がする。振り払われたらその時だ。わたしがしたくてしたことであって、これは意思表明なのだから。
「……つかまえた」
つかまえた、なんて言ったがそれがどちらに当てはまるのかはわからない。赤ずきんのわたしが狼の彼に捕食されたのかもしれないし、お腹に石を詰めて返り討ちにしたのかもしれない。
ただわかることは、わたしはもうこの腕の中から離れたくはないことと、スウィートを逃がしたくないということだけだ。
わたしは至近距離でまっすぐに彼の両の瞳を見抜いて、笑った。
きっと自分でも驚いてしまう程に無邪気な笑顔で。
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