下手くそ我儘【sideガラド・ドティス】

この話の後の話。
 
■お借りしました:ルーミィちゃん、ミィミくん、テイさん
 
 
------------------------------------------------------------
 
 
 テイとルーミィ達から離れた場所へとドティスはガラドを問答無用で連れて行った。二人の姿すら見えなくなったところでガラドから手を離し、振り返る。さらに乱れてしまった浴衣を軽く直しながら、ガラドは困ったように笑う。
 
「やっぱドティやなぁ……」
 
 零された声音も言葉も、困惑は確かに滲んではいるものの嬉しさが隠しきれていない。ドティスはガラドを騙し、彼の目の前から去った。騙されていたことをまず怒るものだろうに、ガラドはそうしない。それどころか、喜んだ様子を見せるばかりだ。
 そういうところがお人好しだと何度言っても、この男は改善するつもりはないのだろう。
 積もる話はガラドからすれば沢山あることだろう。どう対応するべきか。どう答えるべきか。そう悩んでいたドティスの思考を僅かだがガラドは理解したのだろう。苦笑を零し、首を横に振った。
 
「ええよ、別に。なんや、元気やったから。安心した」
「………」
「いやでもテイの兄さんと結婚しとったのは流石に驚いたんやけど……」
「幼馴染だ」
「え、あっ、プロポーズ断った人?」
「無駄に記憶力がいいな……」
 
 過去の記憶。旅をしていた時にドティスが話した内容を思い出してガラドは思わず言葉を零す。それに対してドティスは勿論溜息を零すが、それに関してガラドが苦笑を零すのも数年前と、何一つとして変わりがない。
 
「なあ、ドティ」
「何だ」
「幸せ?」
 
 ガラドは真っ直ぐにドティスを見据えて問いかける。ドティスも勿論見つめ返すが、その瞳の色の片方が失われていることを先程の影の蠢きで薄々理解してしまったガラドは、ただただ哀しくて悔しかった。それでもそれは追求すべきことではない。それはドティスを追い詰めるだけだと、なんとなくそう思ったからガラドはあえて触れない。
 数年前と違い異性装を止めて、左手の薬指に指輪を嵌めた親友の姿。そうに決まっているとわかっているにも関わらずガラドはどうしても聞かずにいられなかった。
 
「ああ」
 
 はっきりとドティスから告げられた言葉に、ガラドはただ反射で、本心からの笑顔を浮かべる。それは友の生を喜び、友の幸福を喜ぶだけの友の姿だ。
 
「なら、よかった」
 
 無意識のうちにガラドの目から雫が垂れた。それはあの時の後悔と無念、全てが安堵に変わった証であり、友の幸福への純粋な喜び。ドティスは溜息をついてからガラドの頬に手を伸ばし、その雫を指先で拭った。
 
「相も変わらずなことだ」
「いや、お前なあ、俺の気持ちちょっとは考えろや……」
「そうだな。だから拭ってやっている」
「はは……ほんま、よかった」
「お前に心配される程落ちぶれていない」
「辛辣すぎん?」
 
 雫が垂れたのは一瞬のこと。雫を拭い取ったドティスの指先が離れていく際に再び視界に入った指輪の存在に、ガラドは嬉しそうに笑う。
 
「……すまなかった」
「……遅すぎん?まあ、いや、律儀やな思うけど」
「五月蠅い」
「トラウマにはなったけど、まあ、もうええよ。お前が幸せでおってくれるんならそれでええ」
「………」
 
 不機嫌そうに眉を吊り上げたドティスの表情を見てガラドは苦笑を零す。他人以上に自分に厳しいドティスのことだ。何だかんだで自分がガラドを騙したことを反省はしており、申し訳なく思っているのだろう。とはいってもガラドは怒りや憎しみの感情はない訳で、謝られても逆にどうしていいのかわからない。それ以上を求められてしまえばこちらも困ってしまうのだ。
 どうしたものか。こうなってしまうとドティスは中々に引いてやくれない。悩み果てたガラドは一つの提案を思いつく。それはただの我儘でしかないのだが。
 
「あー……なら気にしてくれとんのやったらさ」
 
 駄目もとでドティスへと打診した内容は、いやにあっさりと頷かれたことにガラドはまた驚いたのだった。
 
 
*** 
 
 
 焼きそば屋台の元まで二人で戻る。ミィミを肩に乗せているテイは先程までとは違いいつも通りの表情でルーミィと世間話をしてくれていた。ルーミィもテイが怖い人物ではないということはすぐに伝わったのだろう。怯え切っていた表情はない。
 とはいっても、二人に心配と迷惑をかけてしまったことは確かだ。ガラドもドティスもどちらともが自分を内心で責めて反省した。どこまでも似た者同士なことだ。
 まあ、これからまた迷惑をかけてしまうのだが。
 
「戻った」
「ごめん、お待たせ」
「ティス、もういいのか?」
「ガラドさん!……大丈夫ですか?」
 
 ガラドはルーミィの横へ、ドティスはテイの近くまで戻る。テイの肩に飛び乗っていたミィミが飛び降りてガラドの頭に飛び移ったが、それすらもガラドは笑って受け入れる。懐かれるのは、嬉しいのだ。
 席を外したことを二人で謝罪して、簡易的な自己紹介を改めて行う。ドティスがテイのことを伴侶と、ガラドがルーミィのことを恋人と紹介した際にテイとルーミィが照れていたことは言うまでもない。
 そして一通り落ち着いたところで、ガラドが切り出したのだ。
 
「あのさ、二人にお願いがあるんやけど」
「何ですか?」
「何だ?」
 
 ミィミの頭を撫でながらガラドはエピビルを撫でていたドティスを一度見てから、改めてルーミィとテイを見遣る。普段はボールベルトにつけているボールは、今日は帯の内側に押し込んでいる。その中の一つを取り出して宙に放り投げて、受け止めた。
 
「俺とドティとダブルバトルしてくれやん?」
 
 それはガラドがドティスに打診した我儘だった。久方ぶりに会った友の幸福な姿を見たことによる嬉しさ以上のものを求められたら、ガラドにはそれぐらいしか浮かばなかったのだ。友とまた肩を並べて戦いたいと、ただそれだけが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?