渦を巻く【sideリピス】
▼こちらの流れをお借りしています。
■お借りしました:スウィートくん
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目と目があって、口が開いた。リピス、と。間違いなくわたしの名を、彼が呼んだ。
思考が止まって、身体も止まる。自然と力が抜けて、スウィートの腕を掴んでいた手が緩んだ。
青年の彼にとって少女のわたしの手がいとも簡単に振り払われるのは当然のことで、けれども、思った以上に簡単に振り払われてしまって。それは、自分でも予想していなかった程のものだった。
振り払われた手はそのまま宙を浮いたままで。降ろしきることも、再び彼の腕を掴むことすら出来やしない。ただ遠のいていく背中をぼんやりと眺めるしかなくて。どうして、と。自由にならない程に衝撃を受けている自分に驚きしか抱けない。
名を呼ばれただけだ。解放されるためにわたしの名を呼んだだけ。それだけ、たったそれだけだ。
「……、……なんなのよ」
ぽつりと呟いて、帽子を目深に被る。その頃にはもうスウィートの姿なんてわたしの視界からは消え失せていて。消え失せていてよかったとも思う。
嫌がらせとして言っただけで、本当に言うなんて思っていなくて。だからこそ素直に彼がこちらを見てわたしの名前を呼んだことに驚いただけだ。
それだけ、それだけだ。だからこれはただの動揺でしかない。
俯いた先にいたササがわたしを見上げていて。透き通った透明な角は光を反射していたが、ササが身じろげば角度が代わり、わたしの顔を映し出す。
みっともなく耳まで真っ赤になった顔なんて、驚き過ぎただけのせいに決まっている。
「本当に呼ぶとか思わないじゃない………」
ササの角に映る、こんなみっともない自分の顔なんて見たくない。わたしはその場にしゃがみこんで、深く深く、帽子を被り直した。
卑怯だ、と。自分の中で理解出来ない感情が渦巻く。ぐるぐる、ぐるぐると巡るそれは気持ち悪くて、今まで得たことのない感情で。
今しがた消えたスウィートのように、早くどこかに行ってくれと願わざるを得なかった。
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