照らした灯り【sideガラド】

こちらの流れをお借りしています。
 この話この話が関与したものでもあります。
 
■お借りしました:ルーミィちゃん、ミィミくん、テイさん
 
 
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 盗まれたものは、そりゃあ大切なものだった。仲間達との絆を確かめられたようでもあって、仲間達と共に強くなれるものでもあって。大切なものではあったんだ。
 
”……おい、手を出せ”
”え?”
 
 差し出されたそれは、友がいつもウェストチェーンからぶら下げていた指輪だった。少しくすんだ銀の輪には、七色に輝く石が嵌めこまれている。俺がわざと盗まれたものと同じ、キーストーンが。
 
 
***
 
 
 夏祭りの最中のことだ。サハムに乗せてもらって会場までやってきて、ルーミィと共に屋台を楽しんでどれだけ経った頃だったかは覚えていない。
 ただ、見知った顔がそこにはあった。もう二度と会えないと思った顔があった。
 
 ヨノワールに狙われた俺の代わりにそいつはヨノワールの手をとって、俺に対して酷い呪詛を残して消えたのだ。
 俺の代わりに犠牲になって、連れていかれたと思った。わざと憎まれ口を叩いて嫌な記憶として、俺に嫌われようとまでした。この俺ですら呆れる程に___お人好しなドティスは、そういうことをする人間だったから。
 
 目の前が真っ暗になって、目を覚ませばそこにはドティスの姿も、ドティスの手持ちの姿も、俺を襲ってきていたヨノワールの姿だってなかった。手持ち達に聞いても、皆もドティス達の行方はわからないようで首を横に振った。
 ただわかったことは俺のせいで、あの馬鹿なお人好しが姿を消したということと、俺が無力だということだけだった。
 ドティスが言っていたことは何一つ間違ってやいなしなかった。全くもってその通りで、俺は自分のためだけにしか生きられない自己満足の偽善者だと。
 沢山後悔した。沢山悩んだ。沢山沢山、もう二度とあんな風に友を失わないようにあろうと思った。
 
 そんな、俺の人生において大きな影響を与えた存在が、もう二度と会えないと思っていた存在が、いたんだ。
 
「ガラドさん?」
「あ、……ああ、ごめん」
 
 一点を見て固まってしまった俺にルーミィから声がかかった。ハッとして振り返ればどうしたのかと不安そうに彼女がこちらを見上げている。その澄んだ水晶の色の瞳に映る自分は平静を欠いた顔をしていて、そりゃあそんな顔もさせてしまう、と思って苦笑した。
 
「……知り合いがおってさ。前話した、昔一緒にちょっとだけ旅しとったやつ」
「えっ?」
「おん。もう会えんくなったと……思っとったやつ、になったなぁ」
 
 苦笑を零しながら改めてそちらを見れば今まで一度も見たことのない姿でいる、おそらく失踪した友の姿。つられてルーミィとミィミもそっちを見て、再び俺の方を見た。なんならミィミは俺の方に飛びついてきた。おそらくだが俺がいつもと違い焦燥した表情をしていたから、心配でもしてくれたのだろう。
 
「……ちょっと声かけてきてもええ?」
「はい、勿論です。大切なお友達だったって、聞いていますから」
 
 ああ、有難いなと思う。快諾してくれたルーミィの微笑みに自然と安堵して、俺はありがとうと頷いてから見つけた友の方へと向かった。
 
「ドティやんな」
 
 歩み寄って声をかければ、振り向いたその人の目が見開かれた。その反応と表情が全ての答えだった。彼女はドティスだ。俺を置いていった、もう死んでしまったと俺が思い込んでいた人物に違いない。
 けれどもその左目は一体どうしたというのだろうか。空を映し込んだような海の瞳をしていたその両の瞳の色の片方は、闇の中うっすらと世界を照らす灯りのような橙の瞳の色に変わっている。
 その様に困惑していると、上から声が降ってきた。ドティスの肩を抱きよせながら俺を睨みつけるその姿は普段の装いとは違うものの、間違いなくよく利用させてもらっているダグシティのバトルショップの店主に違いない。いや、何でここにテイがとか、何でそんなに睨んでくるんだとか、嫁ってドティスが?だとか色々言いたいことはあるのだが。
 
「顔怖」
 
 反射でまとめとして出た単語は実にシンプルなものだった。ルーミィも勿論テイの表情の怖さに怯えているし、ミィミに至ってはどこか興味深そうにテイの肩を見ている。多分登りたいんだろうな。
 いやいや、ひとまず今はそんなことを考えている場合ではない、と即座に脳を切り替えて改めて二人を見た。ひとまず今テイがドティスのことを嫁と言ったことと、二人の左手の薬指に嵌った指輪からしてもうそういうことなのだろうという結論をつける。嫁、だ。ドティスをさしてテイは嫁といったのだ。嫁という単語の内容が指し示すものはドティスが女性であるということ。
 そこから次いで反射で出た言葉は、もうこれしかなかった。
 
「やっぱり宿の部屋別にするべきやったやん!!」
 
 半ば崩れ落ちるように、丁度傍にあった屋台の鉄パイプを握りしめて俺は___旅の記憶を思い出しての悲痛な後悔の叫びを零した。

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