祭りの華【sideサラギ・ドティス】
▼こちらの流れをお借りしています。
■お借りしました:テイさん、マルくん、イチカちゃん、ペチカちゃん
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テイとイチカ、バトル好きのトレーナー達によっていつの間にかバトルをする流れになった。それに見事巻き込まれる形となったドティスとサラギは勿論バトルには乗り気ではなかったが、惚れた相手がそれを望むならと結局のところ許してしまうのだ。
「はいはい」
サラギは溜息とともに煙草を取り出しキーストーンを装飾として埋め込んだライターで火をつける。じじ、と煙草の先端に火がついたかと思えば煙が立ち上がりはじめた。ところで、サラギ目がけて羽が飛ばされた。それはエアームドの抜け殻となった薄い羽をさらに小さく割ったものだ。殺傷能力は低いとはいえ、勿論人に投げつけるものではない。
咄嗟にサラギが身を屈めたことでその羽は避けることが出来たのだが、器用にもつけられたばかりの煙草の火は羽の軌跡によって掻き消されてしまう。咥えていたそれを手にしながら、サラギは羽を投げてきたドティスを当然のように睨みつけた。
「あ?何してくれてんだ」
「副流煙を会場で巻き散らすんじゃねぇよ……」
サラギ、というかは煙草の火を狙ってドティスは問答無用で羽を投げつけたのだ。どう足掻いても医者がやるべきことではない。
「ちょっ……?!……大丈夫?」
「問題ねえ」
「ティス、待った待った。それは駄目だって」
「…………」
「悪い、怪我ないか?」
「ねぇよ」
サラギもドティスも各々が相手を見て舌打ちをしたのは同時。ポケモンどころかトレーナー側でまで喧嘩が起きそうになるのをテイの仲裁で何とか抑えたと思った頃合だ。
そんなトレーナー達の諍いなどどうでもいいとばかりに、怒り心頭の蛇は自由気ままに暴れ出す。バトル開始の合図だとかトレーナー達の準備が整っていないだとか、そんなことは関係ない。ロイヤルを中心に光る新緑がとぐろを巻いたかと思えば、それは容赦なく渦を描き続けたままマル目がけて放たれる。
「おいおい早速かよ!マル、まもるで弾け!」
ただでさえ素早さで負けているうえにふいうち状態ときた。流石にみがわりを作るまでの時間はない。リーフストームが直撃する寸前で張られた光の壁がマルの身を守った。どうだといわんばかりのマルの輝かしいばかりのどや顔はまもるが解かれたと同時、崩れて宙に浮かぶ。
花弁舞う世界には防がれたリーフストームの緑の光が、彩るように降り注いでいた。その光があまりにも目映いものだから、その後を追って放たれた黒の球体が覆い隠されてしまっていた。イチカの指示でペチカが発したナイトバーストは役割を果たしたまもるが解けた瞬間にマルへと命中したのだ。同タイプの技だからこそあまり利いてはいないが、それでも一撃が入るだけでも場の流れは変わってくる。
「グリセリン、受け止めてやれ」
攻撃を受けつつも宙で回転し着地体勢を整えていたマルを受け止めにいくようにとドティスが指示を出せば、素直にグリセリンはマルを回収に向かった。明らかにモルペコの適正体重を越えているマルをその背で受け止め、重いなあとけらけらとグリセリンは笑った。
「やるじゃん」
「どういたしまして。そっちもね」
相手を見据えて賞賛の言葉を述べ、互いに笑みを浮かべるテイとイチカのやり取りのなんと微笑ましいことか。一方残りの二名のトレーナーについては何を言うまでもない。
「躾のなっていない手持ちだな」
「そっちは随分と常識が欠けたことで」
「即時不意打ちを行使した側がよくもまあいえたことだな」
「品性が欠けた相手に説かれるとは思いやしなかったわ」
「ティス、どうどう」
「サラギ!」
制止が入り、両者から再び舌打ちが落とされた。
「グリセリン、どくどくのキバ」
マルを背中に乗せたまま動き出したグリセリンの狙いはロイヤルだ。先ほどのお返しであるかのように距離を詰めその身に牙を立てる。ごぷりと溢れた毒の色にロイヤルが苛立たし気に舌打ちをし、尾で薙ぎ払った。薙ぎ払われたと同時美女に噛みつくなんて狡いと喚いていたマルに指示が下る。
「マルそのまま突撃しろ!」
薙ぎ払われ再び空中を浮かぶこととなったマルがくるりと身を回転させれば、その姿に相応しい光が放たれた。ぐるぐると巡る雷撃が滑車となったかと思えば、落下の速度に合わせて__ロイヤルの横にいたペチカへと向けられる。
「ペチカ!ふいうちで受け流して!」
落ちてきたマルのオーラぐるまを、ペチカは身を低くして待ち構えた。相手が攻撃技であれば必ず先制できる技。落ちてきたマルの雷撃の滑車の合間を縫って、腕を掬い上げる。
「グリセリン!」
「っと、マルオーラぐるま解除!」
薙ぎ払われたばかりでまだ至近距離にいたグリセリンの名をドティスが呼べば、はっとしたようにグリセリンはその尾でオーラぐるまが解除されたマルの身体を絡め取った。ぐるり、と尾を巻き付けて後ろへと即座に引っ込めば、先までマルがいた箇所を切るペチカの腕があった。美女の尾に巻かれたかったといわんばかりの絶妙な表情をしたマルが見える。が、勿論グリセリンに気にした様子はない。
「性質悪い」
「?」
「あの白髪さっきどさくさに紛れてとぐろまかせてんだよ」
マルを回収した際に、ちゃっかりとぐろをまくを発動させていたドティスを見て苛立たし気にサラギが呟く。そう言われてイチカもグリセリンの方を見れば、マルを回収した尾は確かに必要以上に巻かれているし、その瞳は先よりも鋭い。
「おい、ロイヤル」
サラギの呼びかけにロイヤルは一切振り向かない。やつあたりの威力が高そうな態度でしかないが、サラギはそのまま続けた。
「嫌がらせしてこい。補助してやる」
お前に言われるまでもないとばかりにロイヤルは目を閉じると、自分の眼前にミラーコートを張った。それが張られたのを見てペチカもそっとロイヤルの後ろに隠れた。被害に遭わないためにだ。
「……ミラーコート?」
特殊攻撃を跳ね返す技を何故この場で張ったというのか。この場にいるポケモンの種族値を考えれば使用する意味はあまりないといっていい技だ。何をしてくるのかと身構えているテイとドティスの前で、ロイヤルは自分が出したミラーコートを、鋼の尾で叩き割った。
割れた鏡が細かに砕け散って周囲に落とされる。いくつもいくつも、花弁をともに空中を泳いだかと思うとそれは広範囲に飛び散った。大地へと落ちたそれのせいできらきらと大地が輝く。
目が眩む、と思った際にそれ以上の面倒事を予想したドティスがテイに声をかけた。
「テイ」
「ん?」
「マルでみがわりを張っておいた方が良い」
「……理由は?」
「読み通りなら威力を増した無差別攻撃が来る」
そりゃあすごい、とどこか楽しそうに笑いながらテイは二匹から距離をとっていたグリセリンの背中に再び乗せられていたマルへと指示を出し、みがわりを生み出させた。
「……ミラーコート、ペチカには効かないけどさ」
「そっちにいかないように補助するって言っただろ」
あたりに飛び散ったミラーコートの破片。きらきらと輝くそれは酷く美しくて、太陽の光を反射する。反射するのだ。だからこそ嫌がらせにもってこいでしかない。奪うものは視界。与えるものは、混乱だ。
サラギの指示なく、再びロイヤルが動き出す。地面目がけて、特性によって威力の上がったリーフストームを放てば、特殊技であるそれは大地に落ちたいくつもの鏡にぶつかって跳ね返り、更に威力を増して乱反射する。
__この場にいる何もかもを大地から撃ち抜くように。
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