似た者姉妹【sideホアンシー・ミィレン】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:マリステラさん、アステルさん
 
 
------------------------------------------------------------
  
 
 こちらに向けられる敵意に殺意に、警戒心。それら全てがどうでもいい、と思うというよりかは。”それどころじゃないだろう”と酷くお節介な部分は互いの素性を知らない姉と全く同じところだと、ミィレンは勿論知らない。
 そりゃあそうだ、とボールの中から様子を伺うホアンシーは思う。だってミィレンは自分を救った愛しい人の血を受け継いだ、誰よりも愛しくてやさしい、愚かな人なのだから。
 
 
***
 
 
 足下まで転がって来たムーンボールを拾ったのは反射行動だった。視線はすぐに目の前の一匹と一人に向けられる。化けていたらしい白いゾロアークの姿は確かゴーストとノーマルタイプのリージョンフォームだったか。情報屋であるからこそすぐにそういった情報は手に入れることは出来ていたからこそ、ゾロアークがゾロアに化けていたことに困惑することはない。
 そちらよりも、と私は改めて彼らを見つめた。ぼんやりとしていた子どもは不意に倒れかけ、ゾロアークはその子を抱き留めた。子どもの頬は遠目から見てもわかる程に赤く染まっており、不規則な呼吸音と上下する胸があの子が体調不良であることを示している。
 ゾロアークは子どもに頬を寄せて悲し気な鳴き声を上げ続けているが、子どもの容態がそれで回復する訳でもない。
 
「あなた」
 
 声をかけて一歩近寄れば、ゾロアークは再びこちらへと明確な敵意を向ける。びりびりと肌を焼きつくそれは、”慣れ過ぎてどうとも思わない”ものだ。敵意、悪意、憎悪、嫌悪、殺意。
 結構。そんなものどうだっていい。向けたいなら向ければいいし、その爪をこちらにつきたてるなりなんなり好き勝手すればいい。
 今大事なのはそんなことじゃない。
 私はゾロアークの腕を掴んだ。勿論すぐに振り払ってゾロアークは距離をとろうとしたようだが、生憎とこちらにはあくタイプのウーイーがいる。私の言いたいことややりたいことを理解していたウーイーは後ろからゾロアークの身体を抑え込む形で、三つ首を絡ませた。
 
「警戒心結構。大事なことね。だって私はあなた達にとっては見知らぬ他人なのだから」
 
 こちらを睨みつける視線すら慣れたものでなんとも思わない。私は殴られることも引き裂かれることも覚悟のうえでゾロアークの腕を掴む手に更なる力を込めた。
 
「けれどもその子は熱を出している。あなたはポケモン。その子はヒト。ポケモンがヒトの治療と看病が出来る?ええ、出来るポケモンもいるわ。あなたも出来るのかもしれないわね」
 
 けれど、と私は続ける。
 
「対応は迅速であればある程いいのよ」
 
 懐からドティスから貰っていた解熱鎮痛剤を取り出す。睡眠不足と不摂生によって体調不良を繰り返している私にドティスが押し付けたものがここで役に立つとは思わなかった。とはいっても大人が服用するように分量されたそれを丸ごと子どもに飲ませる訳にはいかない。
 白い錠剤を歯と歯で挟んで、噛み砕く。ぱきりと割れた錠剤の半身は私の口の中へ、もう片方は構えていた掌の上に。舌の上にのった錠剤はそのまま見せつけるように嚥下して、私はゾロアークの前に割れた錠剤を押し付けた。
 
「飲ませなさい。私からの施しなんて嫌でしょうけど、その子を大事に思うならむやみやたらに怯えて敵を増やすんじゃなくて、”使えるものを使いなさい”」
 
 私も飲んだのだから毒じゃないことぐらいわかったでしょうと吐き捨てるように呟いて、ゾロアークの警戒に満ちた瞳を睨みつけた。
 
 
 
 
 嫌われることには慣れている。いや、むしろ嫌われたいのだろう。これ以上大切なものは作りたくない。大切なものは奪われると、壊されると知ってしまっているから。
 だから、ああ、本当に。敵意だけの方が、有難い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?