灰銀の指先【sideグリモア・ドティス】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テラーさん
 
 
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「……旅の話を、聞かせてあげて」
 
 不思議なお願いだった。だが難しいお願いという訳でもなく、突っぱねる理由もそこにはない。
 マリステラという子に出会えたら手を引いて旅の話を聞かせる。自分にとってはたったそれだけのことでいいのなら、問題なく行える。
 
「…………家族なんだ。たったひとりの」
 
 テラーにとってマリステラはたったひとりの家族であること。その口振りと表情にシュテル達の様子から、相当に大切な存在なのだということもすぐにわかった。
 過ぎった疑問は、それを何故自分にというものだ。自分でいうのもなんだが人間としていい性格はしていないし、他人のために何かをしてやれるような余裕のある人格もしていない。そんな俺にどうしてやさしすぎるテラーがこのような頼み事をしたのかわからない。
 大切な存在を俺に傷付けられる可能性だってあるというのに。
 
「わかった」
 
 拒絶する理由は無い。
 
「俺でいいなら」
 
 話すのも面倒臭がりで端的で、感情の起伏すら全然ないこんな人間でいいのなら。それをテラーが望むのなら、それは俺がとやかくいう領分でもないのだから。
 
 
***
 
 
 淡々と話す、会って数分の弟の姿の既視感に頭が痛い。まるで過去のどころか常の自分の姿を見ているかのようで、一体どうしてここまで似ているのかと疑問に思う。
 同じ血が流れる原因となった父は快活な性格をしており、自分やグリモアのような性格はしていない。それをいえば自分の母もやさしい性格をしていたため、自分は両親のどちらにも似ていないことになるのだが。そこまで考えてグリモアもその線が近いのだろうかと思う。思うから、どうなのだという話だが。
 テラーとグリモアの話を盗み聞きするつもりはないが、流石にこの至近距離で話されていたら耳には入ってしまうものだ。
 たったひとりの家族か。あの口振りとグリモアへの態度からして、妹か弟なのかと考えるもそれは俺が踏み入る領分ではないと思考を止めた。
 
「……」
 
 懐からモルヒネが入ったボールを取り出し、目と目を合わせた。俺が一瞬だけグリモアのつけている髪飾りを見ただけで、何を言いたいのか察したのだろう。モルヒネは目を伏せて頷いた。
 
「……欲しいか?」
 
 問い掛ける。欲する理由があって然りだからだ。しかしモルヒネは首を横に振った。それはグリモアの髪飾りになっている母の形見のコアはいらない、という答え。
 お前がそう言うのなら、俺から言えることは無い。母の形見を常に付けている俺とモルヒネは違う。ただそれだけのことだった。

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