甘い人【sideミィレン】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:サーシャくん、ティアナさん
 
 
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 休息を一人でとっていた時のことだった。不意に視線を感じて振り返れば、そこには可愛らしい仮装をした小さな子がひとり。成長期の真っただ中のように伺えるその子の容姿は可愛らしく、中性的だ。それでも男の子なのだなと気付いてしまえるのは以前と今の職業両方によって鍛えられたおかげだろうか。
 赤の腕章とリングを身に着けた翡翠の瞳のその子は、笑顔でこちらに手を振っている。その笑顔がどこか子どもらしくないと思ったのは、一瞬だけ伺えた表情を見てしまったからだろうか。私の顔が知り合いにでも似ていたのだろうかと不思議に思いつつも、そこを邪推する必要まではないだろうと私は微笑んだ。
 
「こんにちは。一人なの?」
「うん。チェックポイントに行く途中なんだ」
 
 一回り小さな身の丈のその子の傍まで寄って、少しだけ身を屈める。少年が小さすぎる訳ではないが、こちらが履いているヒールの都合上少し距離が空いてしまうからだ。
 不意に、残像が過ぎる。一瞬だけ視界が揺れて、そこには目の前にいる少年の姿が映った。けれどもその姿は今見ている姿ではなく、浴衣を身に着けたものだ。横にいるのはウーイーと同じサザンドラで。
 
「おねえさん?」
「ああ、いえ。何でもないの。……どのチェックポイントに行く予定なの?」
「惑わし森ってところまで行こうかなって」
 
 惑わし森。それは確か野生のオーロットの群れが暮らす場所であり、彼らが常に徘徊するため道に迷いやすくなっているのだったか。
 
「惑わし森ね。それならここを真っ直ぐ行けばつくわ」
「ありがとう」
「迷いやすいから気をつけてね。もし迷ってしまったら。枯れた大きな神木を目指すの」
 
 既に少年は知っていることかもしれないが、それでもイエローチームに所属しているからと、単純に放っておけずについついお節介を働いてしまう
 
「食べ物かおもちゃをお供えすればボクレーが森の出口まで案内してくれるわ」
 
 はい、と鞄の中からクッキーを取り出して手渡す。ポケモン相手なのだからポフレやポフィンの方がいいのだろうが、生憎と今はそういったものは手持ちにはない。
 ふと、少年の周囲を泳いでいたシャンデラの視線に気付いてそちらを向けば、機嫌はいいのだろうか。楽し気に身を揺らされる。目と目があったのだからと微笑んで手を振り返せば、また楽し気に身が揺らされたような気がしたが真意は定かではない。
 
「うん、ありがとう」
「……不安なら森まで一緒についていきましょうか?」
 
 少年が不安そうにしていると思ってそう口にした訳ではない。クッキーを受け取ったその子の表情が一瞬、私の顔を確かめるように見た気がして。だからこそ気になってしまっただけなのだ。
 バロックの方には後でユワンを行かせて見張らせておけばいいだろうし、なんてことを考えながら。

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