難解同一【sideロイヤル】

■お名前だけお借りしました:イチカちゃん


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 ティーカップをテーブルに置いたところでロイヤルは思い出す。そういえば数日前あの生意気なトレーナーの誕生日だったことを。
 道理でイチカがわかりにくいもののそわついた様子で彼への祝い事を用意していた訳だ。正直サラギの誕生日などどうでもよかったので忘れていた。自分がサラギの手持ちになった日でもあったが、その時からサラギをトレーナーとして認めるまで時間が随分とあったためやはり差程特別な日には思えない。
 サラギのことはまだマシなトレーナーとしては成長したとは思っているが、ロイヤルからしてみれば最低で許せるランクに辿り着いた程度。あれは人としては実に愚かであり救いようがなく、好くところが見つからない。よくイチカや手持ち達に気に入られたものだ、と奇跡を感じすらする。
 
『ロイヤル、どうしたの?』
『ガラム。サラギの誕生日を忘れていたことを今思い出したのです』
『えっ、珍しいね。こんなに早く思い出すなんて』

 ロイヤルの言葉にガラムは大変驚いた様子を見せる。それもまたおかしな反応だが、ロイヤルが自分以外のことを気にかけることは実に珍しいのだから仕方がない。

『お前は何かしたのです?』
『引っ付いたよ!』
『普段と変わりありませんね』

 そうかなと首を傾げたガラムにロイヤルはそうですよと返す。そうすれば単純なその子はすぐに納得した素振りを見せるのだ。

『ねえ、ロイヤルはどうしてサラギの誕生日を祝わないの』
『簡単なことです。無意味なことはしたくありませんので』
『無意味?』
『貴方にはまだ難しい話です』

 ロイヤルはそう告げて、ティータイムの共となっていたポフレを二つトレーにのせてガラムの前へ差し出す。ガラムはぱあと表情を明るくさせるとトレーを咥え、お姉ちゃんと食べてくるね!と姉の元へと走っていった。

『まだと言いましたが、一生の話でしたね』

 後ろ姿を眺めつつ、ロイヤルは再びティーカップに口をつけた。

『あれはあの一点だけは妾と同じ』

 生きとし生ける生命体全て、それぞれの個が存在しておりその種は多様に溢れる。同一なものなんて何一つなく、その個は独自の個性を生まれながらに確立する。
 誕生日を祝われる事が嬉しいものもいれば、そうではないものもいる。例外を持つものだっている。一つの事柄についても、その個によってどう受け取るかは異なってくるのだ。
 ロイヤルは自分が好むもの以外からの感情は全て煩わしいと感じる性質であり、サラギもその点が酷似している。サラギに至ってはもっと難解でややこしく、だからこそロイヤルは彼に何もしない。この存在ならここまでは平気、だがしかしこれ以上は嫌悪する、といったように事細かに線引きがされている。
 ロイヤルは自らに不遜を働かれることが何よりもの屈辱であり憤怒を抱く。故にそのような細かな線引きを判定されることも好ましくなく、気にすることすら煩わしく面倒だ。故に、何もしないが最適解に他ならない。
 不快を排除し効率を求める怠惰な蛇。あれは本当にその一点だけは同じだ、とロイヤルは思考しながらティーカップを置いた。
 折角のお茶が不味くなる。あれのことを考えるという無意味な時間の過ごし方はもうやめよう。ロイヤルはそう思い思考に蓋をする。

 それが彼女なりの最大のマスターへの祝いとして。


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12月4日、サラギお誕生日おめでとうの話。

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