祭りの後には【sideサラギ・ドティス】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:テイさん、マルくん、イチカちゃん、ペチカちゃん
 
 
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 蛇は望んで一匹でいた。そうあるべきだと理解していたからこそだ。
 蛇は望んで他者といた。そうあるべきだと理解していたからこそだ。
 
 蛇は自らが他者を傷つけることしか出来ないと理解していた。だからこそ一匹でいた。だからこそ一匹でいられなくなるのであれば剛の意志を持つ人間だけを主とすると決めていた。
 蛇は自らが他者を傷つけることしか出来ないと理解していた。だからこそ他者とした。だからこそ他者といるのならば柔の意志を持つ人間だけを主とすると決めていた。
 
 蛇は結局どちらも主人を持った。己が望んだ主人を。
 
 
***
 
 
 ロイヤルのリーフストームの支援を受けて、ペチカは宙へと舞い上がった。風力、重力。それらの力をその身にまとまわせながら、友から授かった愛しい花を散らせてでも落ちていく。狙いはただ一つ。毒の力を持つ蛇だ。
 受けた分を返すようにと腕に力を込めて、振り下ろす。グリセリンは動けない。動かない。その爪の切っ先の煌めきに、目を奪われた。
 重い一撃がグリセリンに入る。身体が大きく揺れてその場に崩れ落ちた。だが、その瞳の色が変わったことにトレーナーが気付いて不味いと胸中で舌打ちを落とす。
 
 二番目に異変に動いたのは同じ蛇であるロイヤルだ。似ていた。酷く似ていたからこそ、気付けてしまった。その瞳の色が獲物を捕らえる色に変わったことを。
 大地に降り立ち、体勢を整えようとしていたペチカ目がけて、どこにそんな余力が残っていたというのかグリセリンが飛び掛かった。その瞳の色はぎらつき、牙から滴る毒の量は先とは比べ物にならない。喰らえばひとたまりもないことなんて誰が見てもわかったが、それを避けるには距離がなさすぎる。
 しかし予想していた痛みはペチカには訪れなかった。ペチカの身体を覆うように毛並みの整えられた新緑の身体が巻き付いている。頭上からはロイヤルの小さな呻き声が聞こえたが、それも本当に一瞬のもの。次の瞬間には尾の先を鋼に変えさせ、自分の胴体に噛みついていたグリセリンの頭を殴り飛ばしていたのだから。
 容赦のない一撃にグリセリンがその場に倒れ伏す。しかしロイヤルが倒れるのも同時だった。二匹の蛇が大地に倒れ、ペチカが咄嗟にロイヤルの様子を確認した時__後ろで電撃が走った。
 
 
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 最終的に場に残ったのはマルだった。最もダメージを受けていなかったからこそオーラぐるまでペチカの不意をつき、勝利を飾ったのだ。
 そして現在はバトルを終えて即座にいてもたってもいられないとばかりにドティスがポケモン達の治療を開始した。一応ドティスは勝利した側だというのに、一切としてそこに興味などないようでグリセリンだけをボールに戻し、他のポケモン達を見始めたのだ。それに対してマルが不思議そうにドティスを見上げたが、ドティスは何も言わずマルの頭を撫でただけだった。
 
「悔しい……」
「タイプ相性が悪かったから仕方ねぇだろ」
「でも悔しい」
「まあまあ、いい勝負だったぜ。結構危ないと思ったしな」
 
 一方残ったトレーナー三人ではバトル後の穏やかな談笑が行われていた。とはいってもサラギは基本イチカにしか声をかけないため、主に談笑という談笑を行っているのはテイとイチカの二人だけなのだろうが。
 
「次は絶対負けないから」
「受けて立つぜ。ダグで店やってるからよ、いつでも来てくれよな」
「!勿論」 
 
 爽やかな似た者トレーナー同士のやり取りは微笑ましいものだ。イチカ自身が不快に思っていないのならいいか、とサラギはイチカとテイから視線を逸らし、治療が行われている方へと視線を向けた。
 こちらに背を向け治療を続けるドティスはサラギの視線などには気付いていないようで、未だ意識を失っているペチカの治療を行っている。
 それを眺めていたのだろうか。先に意識を取り戻していたロイヤルがペチカの頭へと身を寄せたかと思うと、乱れた毛を整えて再び花を挿し込んだ。散った花の代わりなのだろうか。
 ロイヤルの真意はわからないが、ドティスから見た彼女の表情は酷くやさしいもののように思えた。
 
 
 
 
 
 
 一匹であるべきだったのに。どちらももう戻れない。

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