敗者の追跡【sideミィレン】
■お借りしました:ダヴィドさん、クワットロくん、アイちゃん
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火柱が燃え上がる。それはさながら私の怒り何もかもを顕にしているかのようだ。探し求めた、憎くて堪らない男の姿が視界に入り、私は反射で苛立ちを表情に顕にした。
その男のすぐ側には潤んだ瞳でこちらを見つめる愛しのチリーンの姿。ああ、ああ、ごめんね、そんな男に奪われてしまって。絶対に助け出してみせるから。
「やあ、ミィ。今日もいい月夜だね」
「耳障りだわ」
巫山戯た態度を取り続けるダヴィドに唾を吐き捨てると同時、私の後ろに控えていた火炎が私を守るようにとぐろを巻いた。
いつの間にか放たれていたマジカルリーフはユワンの身体が燃やし尽くす。ふん、とユワンがマジカルリーフを放ったクワットロを見下ろしほのおのむちをしならせた。
ダヴィドが指を鳴らす。それが合図だとばかりにクワットロは身を翻し再度技を放った。その余裕ぶった美しすぎる動作すらも何もかもが腹立たしくて仕方がない。
炎タイプのユワンに草と毒タイプのクワットロを出している時点で、あいつがこちらを舐めきっていることがわかる。腹が立つ。
「折角の逢瀬なんだ、少しぐらい会話を楽しんでもいいじゃないか?」
何が逢瀬だ。何が楽しむだ。目の前の男を認識するだけで視界に入れるだけで、こちとら怒りと吐き気のあまり倒れそうだというのに。
忘れない。騙されたことを、弄ばれたことを、奪われたことを。この男にされた全ての憎悪を。
「黙って、アイを返しなさい」
アイを捕らえるその穢らわしい手にすら、怒りのあまり狂いそうだ。私の大切なアイ。私のはじめての手持ち。家族がいない私にとっては小さい時からずっと共に居たアイが私の家族であり親友だ。
その子を私から奪い引き離し、怯えさせ悲しませるこの男を私は一生赦さない。
「それは難しい相談かな」
にこり、と美しすぎる気味の悪い笑みを浮かべてダヴィドは後ろに下がり始める。アイが私の方に手を伸ばして、なき声をあげた。
咄嗟に駆け出して手を伸ばした。しかしユワンが私の前に回り込む方が早かったのだ。何を、とユワンを見上げればその子は頭を横に振る。
は、と遅れて私が足を踏み出さんとしていた箇所が毒泥に塗れていたことに気付いた。あの男はクワットロにヘドロばくだんを静かに少量ずつ放たせ、私の方の足場を腐らせ追跡を不可能にさせていたのだ。
顔をあげれば、もうそこにはあの男の姿もアイの姿もない。心配そうに私の様子を伺うユワンの身体に身を預けて深く深く溜息をついた。
また、逃げられた。
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