チーティングの行方【sideシャッル】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:ソルシエールさん、ハイローくん
 
 
------------------------------------------------------------
 
 
 まもるで作り上げた障壁の中、キラーダはダメージをしっかりと蓄積させているハイローを眺めていた。生憎とトレーナー同士の会話を聞いている余裕まではない。
 あやしいひかりは通じたようだが、その結果ここまでの大暴れをするなんて思ってもみなかった。みなかったからこそ、___愉しくなってきてしまった。
 
「それはそれは……素敵な関係性ではありませんか。と、第三者からいうのもおかしな話ですかね」
「そういった意見をするのは珍しい部類であるだろうよ」
「ええ、ですが私はどのような関係であれ否定するのは勿体ない、哀しいと思う性分でして」
 
 関係性の有り方は多種多様だ。だからこそそれを否定する気はシャッルには基本的にはないし、むしろシャッルはどのような関係であれ面白いと思って眺める性格をしている。だからこそ、余計に目の前の彼らの姿は面白く、好ましく思えてしまった。
 トリックルーム。放たれたそれによって場の空気が歪み、ぐるりと反転する感覚に襲われる。ぎゃくてんポケモンであるハイローにとても似合う技だ、と思ったと同時にキラーダが自らの身を守っていた殻から飛び出て、ハイローへと飛び掛かった。
 
 先よりも二匹の素早さが早くなったように感じられるのはトリックルームの効果によるものだろう。どちらとも素早さは平均からすれば低い方であり、故にどちらともが常よりも素早くなる。普段と異なる動きが出来ることにキラーダは楽しく思ったのだろうが、それ以上に彼女の愉悦は他にある。
 今もなお混乱した状態のまま、トレーナーが傷つくことすら厭わずに暴れ続けるハイローの攻撃をキラーダはかわして、大地に降り立つ。けれどもその動きは先よりも早いものだ。だからこそ立て続けに振り下ろされた二撃目をかわすことは大地に降り立ったばかりのキラーダには叶わない。
 深く、腹部に入った強い一撃がキラーダの身体を宙へと浮かび上がらせた。ばかぢからという技は本当にその名の通り過ぎるところがある。あくタイプであるキラーダにかくとうタイプの技であるそれは効果は抜群であり、混乱中に散々使われていたこともあってハイローは攻撃も防御も威力を増していた。
 
「おや、いい一撃が入ってしまいましたね」
「かわしきれなかったようには見えなかったが」
「まもるは連続では出しづらいですから」
「いいや?あの子、自分から当たりにいっただろう」
 
 ハイローとの距離を縮めるのならば、先まで攻撃をかわしていたように機会を伺うべきだった。大ぶりの攻撃の後には誰だって隙が出来やすい。だからこそキラーダの行動は不可解なものだ。キラーダは愉しそうに、ハイローが攻撃手段に出る前に接近したのだから。
 
「あの子も少し面白い子でして」
 
 宙へ浮かび上がっていたキラーダの身体が途中で止まる。自らの背後に先程ハイローが大破させたものの中の一つである木枝をサイコキネシスで移動させ、それで動きを留めさせたのだ。
 キラーダは木枝の上に器用に跳び乗ったかと思うと、それを蹴り飛ばしてハイロー目がけて下降し、頭に抱き着くようにして脚を絡めた。
 
『あは、面白いわ。面白い。何がひっくり返ってるのかわからないけど。あなたとっても面白いのね』
『おい、離れろ!』
『いいじゃない少しぐらい。ねえ、ねえ、とても厄介なのね。面白い、面白いわ。私そういうの、大好きなの。厄介な愛って素敵よ』
『愛?そんな訳』
『愛よ。憎悪だって愛なのよ。だから愛と思えば何だって愛になる』
 
 楽しそうに愉しそうに、おもちゃを見つけたように笑うキラーダには先程のダメージが確かに蓄積されている。けれども、それすらも愉しいとばかりにキラーダははハイローの頭を一度強く抱きしめてから、傷ついた箇所を撫でた。
 
「……何をしてるんだい、あの子は」
「うーん。あの子、実は被虐体質でして」
「………」
「とはいいましても、基本的には痛い思いはするのは嫌いなんですよ」
「矛盾した話じゃないか」
「そこが面白いといいますか。あの子、普段傷つかない分傷がつくと箍が外れるといいますか……わかりやすくいいますと、スリルが大好きで頭の螺子が飛ぶんです」
 
 ハイローの腕が振り上げられて、キラーダを引き離すかのようにばかぢからが振り下ろされる。それを見上げた朱の瞳が怪しく揺れて、理解した。シャッルが何の指示を出すかを。
 
「まあ。命がけ、とまでは流石にいきませんが自分の限界を図るのが好きなようで」
 
 シャッルが手を軽く叩く。それを合図にキラーダが耳を動かした。それが、十分すぎる答えともなる。
 
「上手なことだよ。ハイロー」 
 
 振り下ろされかけていたハイローの腕が、途中で止まる。ソルシエールの呼びかけと同時、丁度いいタイミングでこんらんが解けたのだ。
 
「暴れて傷をつけるのはこっちであって、アンタじゃないだろう」
「見抜かれていましたか」
「得意ということはわかったよ」
 
 ブラッキーは元々攻撃力が高いポケモンではない。そして先程までキラーダは一切としてハイローに攻撃をしていなかった。していたことといえばあやしいひかりで混乱させて、その後はハイローが消耗するまで逃げ回っていただけだ。
 だからこそ狙いは、ハイロー自身に自分をありったけの力で攻撃させることと、相手の攻撃力で攻撃出来るイカサマが妥当だと推測がたてられる。つまりはどちらともを行える機会を伺っていたということであり、言葉遊びをしながらも先がその絶好の機会だったということだ。
 
「あのようなお誘いを頂けましたら折角でしたので、こちらはと思う気持ちは勿論」
 
 シャッルの答えは、イカサマをしない主義のハイローに対してイカサマを使用出来るキラーダで迎え撃つ気だった、の答えに他ならない。
 その回答が告げられるよりも早くに、我に返ったハイローは努めて冷静にキラーダの身体を捕えた。逃がさないようにと掴んだ身体を、自分の身体から引きはがすようにして大地へと勢いよく叩きつける。
 咄嗟にキラーダがまもるを張ったが、十分にばかぢからで威力が高まった勢いで大地に技と重力とともに叩きつけられれば、疲弊していたこともあってまもるは途中で崩れ落ちる。
 鈍い音と砂煙が晴れた後に残ったものは、目を回してその場に倒れるキラーダと、疲れたように座りこむハイローの姿だけだった。
 
「残念、チェイシングはなしでお願いします。素敵なギャンブルをありがとうございました」
 
 すっかり意識を失っているキラーダは、それでも酷く満足そうだった。本当にどうしようもないお姫様だと笑いつつ、シャッルはキラーダをボールへと戻してソルシエールにチップを差し出した。
 
 
***
 
■末尾判定の結果、シャッル側の負けとなります!
 そのためスイーツチップ30個をソルシエールさんにお渡ししました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?