虹色の世界【sideミー】

■お借りしました:サユーちゃん、クスくん

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 世界は快晴。気分も上々。ふらふらしながら、それでいて楽しそうについてくるホアンシーの手を握りしめてミーはステップを刻む。コンクリートで出来た大地にヒールの音が響く音は小気味よく、耳障りのよさを助長させるように彼女は鼻歌を口遊む。
 コランダ地方に来た理由はよく覚えていない。けれども趣味と仕事を兼ね備えた占いを主軸とし、この地方を愛する手持ちたちと自由に旅をすることは彼女にとっての幸福に他ならない。
 人やポケモンと過ごす時が何よりも好きで、旅というものは新たな出会いと時を沢山くれるのだから最高だ。彼女はいつだってしあわせだ。何をしていても楽しくて、世界が全て虹色に輝いて見える。

 ふと、ミーは足を止めた。それにホアンシーも不思議そうに首を傾げて、ミーの視線の先を追う。そこには落ち着いたものの、けして地味ではない外観の喫茶店が佇んでいた。ベージュの壁に、藍色の天井。ビターチョコレートのような濃い茶色の扉が重なったそれはシックにまとまり、このノートシティという町に酷く相応しい建造物のように思えた。

「素敵!ね、ね、ホアンシー。この素敵なお店に入ってみよう?」

 ぱあ、と目を輝かせたミーは笑顔で頷いたホアンシーを抱き上げて扉に手をかける。ビターチョコレート。わずかな苦さと甘さを視覚から錯覚させるそれを押し開けて中に入れば、からん、と音が鳴った。来客の来訪を歓迎し、店内へと告げるための音だろうか。
 ミーはきょろきょろと周囲を見渡し、すぐにその人物の姿を見た。その人物がミーの方を見たのもこれまた同時なことだった。カウンターの中に立つグレーアッシュの髪色の少女、彼女はミーと目があうと穏やかに微笑んだ。柘榴石のような凝縮された赤の瞳が、酷く印象的な子だった。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは!席はどこでもいーい?」
「ええ、勿論。お好きなお席をどうぞ」

 それなら遠慮なく、とミーは少女が立つカウンターの前まで向かい、席に腰かける。腰かけたと同時カウンターの中からひょっこりと出てきたクスネがミーの横の椅子へと腰かける。愛らしい鳴き声をあげながらミーを見上げるクスネに、ミーは笑顔を浮かべて頭をくしゃりと撫でた。

「可愛い~~!君のお友達?」
「いつの間にか居ついてしまいまして」
「そうなの?ふふ、なんていうの?」
「クス、と」
「クス!はじめまして、ミーっていうの」

 クス、と教えてもらったその子の顎下をやさしく撫でてやれば喉を鳴らす声が聞こえる。可愛いね、とミーは一つ言葉を零してからカウンターの方へと向き直れば少女によってメニューが目の前に出されていた。

「あ、ありがとう~」
「いいえ。ご注文がお決まりになりましたら……」
「お勧めがいいな、君の。あ、それとね」

 膝の上にのせたホアンシーの両手を握って軽く揺すりながら、ミーは純粋無垢に問いかけた。

「私ね、占い師のミー。君のお名前はなんていうの?」

 ミーにとっては相手が店員であり仕事中だということなんて気にもならないことだ。彼女はただ、ただ、自分が楽しむしあわせな旅の最中なのだから。
 虹色の世界の中、はじめて見た灰色の彼女へと。ミーは笑って首を傾げる。

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